リンゼイ・アンダーソン

リンゼイ・アンダーソン

リンゼイ・アンダーソン（Lindsay Anderson）は、1923年4月17日にこの世に生を受け、1994年8月30日に生涯を閉じた、イギリス出身の著名な映画監督であり、同時に映画批評家としても活動しました。

生い立ちとキャリアの出発点

アンダーソンは、父が陸軍軍人であったことから、その赴任地であったインドのバンガロールで誕生しました。その後、イギリスに戻り、教育を受け、高い評価を得ているオックスフォード大学で学びを深めます。特異な経歴として、第二次世界大戦中は国の要請により暗号作成の任務に携わった経験を持っています。

戦後、彼は映画の世界に没頭し、特に映画批評の分野で重要な役割を担いました。1947年には、後の著名な映画人となるギャヴィン・ランバートやカレル・ライスといった面々と共に、影響力のある映画雑誌『Sequence』を創刊しました。この雑誌は、当時のイギリスにおける映画批評や理論に新たな視点をもたらし、アンダーソン自身も批評家として積極的に筆を執りました。彼は、イギリス映画界の現状に批判的な立場を取り、より現実を見つめた映画作りを提唱しました。

監督としての軌跡

批評活動で名を馳せる傍ら、アンダーソンは自ら映画製作にも乗り出します。初期にはドキュメンタリー映画の分野で監督としてのキャリアをスタートさせ、現実社会を深く洞察し、それを映像として捉える手法を磨きました。彼のドキュメンタリー作品は、社会の様々な側面やそこに生きる人々をリアルに描き出していました。

ドキュメンタリーで培った経験を経て、アンダーソンは長編の劇映画へと活動の主軸を移します。1963年に発表した『孤独の報酬』（This Sporting Life）は、彼の記念すべき初の長編劇映画となりました。この作品は、プロラグビー選手の苛烈な人生と内面の葛藤を力強く描き出し、その年のカンヌ国際映画祭でも上映されるなど、批評家から高い評価を得て、アンダーソンを劇映画監督として認知させるきっかけとなりました。

そして、彼の国際的な評価を不動のものとしたのが、1968年の作品『If もしも....』（If...）です。この作品は、イギリスの厳格な寄宿学校を舞台に、生徒たちの体制への反抗を、現実と幻想が交錯する斬新な手法で描きました。その挑戦的で革新的な内容が世界的に注目され、第22回カンヌ国際映画祭において最高賞であるパルム・ドールを受賞するという輝かしい功績を残しました。この受賞により、リンゼイ・アンダーソンは一躍、世界の主要な映画監督の一人として認められることになりました。

『If もしも....』の成功後も、アンダーソンは独自の視点とスタイルを持った作品を作り続けました。社会に対する批判的な眼差しや、人間の深層心理を探求するテーマは彼の作品に通底しています。『オー!ラッキーマン』（O Lucky Man!）や『ブリタニア・ホスピタル』（Britannia Hospital）といった作品は、しばしば『If もしも....』と合わせて彼の代表的な三部作として言及されることもあります。晩年には、アメリカで『八月の鯨』（The Whales of August）のような人間ドラマも手がけ、活動の幅を広げました。

リンゼイ・アンダーソンは、映画批評家としての鋭敏な知性と、監督としての妥協なき表現力をもって、生涯を通じてリアリズムを追求し、既存の価値観や権威に疑問を投げかけ続けた人物です。彼の作品群と批評活動は、後世のイギリス映画界、そして世界の映画人たちに大きな影響を与えています。

主な監督作品

孤独の報酬（This Sporting Life, 1963年）
If もしも....（If..., 1968年）
オー!ラッキーマン（O Lucky Man!, 1973年）
怒りを込めて振り返れ（Look Back In Anger, 1980年）
ブリタニア・ホスピタル（Britannia Hospital, 1982年）
八月の鯨（The Whales of August, 1987年）
* 逆転無罪（Prisoner for Honor, 1991年）

もう一度検索