リー・ライト

リー・ライト (Leigh Light)

リー・ライトは、第二次世界大戦中の対潜戦において、連合軍が使用した革新的な航空機搭載型探照灯です。この装置は、第一次世界大戦におけるイギリス海軍航空隊（後のイギリス空軍）のパイロットであったハンフリー・ド・バード・リー氏によって考案されました。その主な目的は、大西洋上で活動するナチス・ドイツ海軍の潜水艦、いわゆるUボートが、夜間に水面上に浮上してバッテリーを充電する際を捉え、攻撃を加えることにありました。

開発の経緯

大西洋の戦いにおいて、Uボートは連合軍の輸送船団にとって深刻な脅威でした。日中は航空機による警戒が有効である一方、夜間はレーダーなどの探知手段が発展途上であり、Uボートは比較的安全に浮上して充電や換気を行うことが可能でした。リー氏は、この夜間の脆弱性を突くため、航空機から直接、強力な光を照射して敵潜水艦を視覚的に捕捉するというアイデアを抱きました。彼はこの探照灯を自ら設計・発明し、さらには私財を投じて試作品を製作しました。

しかし、彼の画期的な発想は、当初イギリス空軍省からは十分な理解や支援を得られませんでした。軍当局の導入判断の遅れにより、リー・ライトが実際に連合軍の哨戒機に広く装備され、実戦に投入されるまでには、考案から実に1年以上の貴重な時間が失われることになります。この遅延は、それまでの期間に多数の船舶がUボートの攻撃により失われたことを考えると、大きな代償であったと言えるでしょう。

構造と性能

リー・ライトにはいくつかのタイプが存在しました。機体下面に直接固定されるものもあれば、航空機の機銃塔のように旋回可能なターレット（銃座）に搭載されるものもありました。その性能は驚異的であり、当時の照明技術としては比類なきものでした。

例えば、広く使用された爆撃機であるビッカース・ウェリントンに搭載されたモデルは、直径がおよそ24インチ（約610ミリメートル）にも及び、重量は約1100ポンド（約500キログラム）という巨大なものでした。その明るさは、拡散レンズを使用した場合で2200万カンデラ、拡散レンズを取り外せば5000万カンデラにも達しました。これは、現代の一般的な自動車のヘッドライトが約1万5千カンデラ程度であることを考えると、比較にならないほどの強烈な光量であったことが分かります。この強烈な光は、夜間の海上でも遠距離から目標を鮮明に照らし出すことを可能にしました。

実戦での運用と影響

リー・ライトは、特に夜間の対潜哨戒において、航空機に搭載された初期の空対地レーダーと組み合わせて運用されました。まず航空機がレーダーで浮上中のUボートを探知し、その後、目標に接近した段階でリー・ライトを照射します。突如として夜の闇を切り裂く強烈な光に照らされたUボートは、その姿を隠すことができず、航空機からの爆雷攻撃に対して無防備な状態に陥りました。これにより、それまで比較的安全に夜間の活動を行えていたUボートにとって、浮上航行と充電が極めて危険な行為となりました。

リー・ライトの導入は、大西洋における対潜戦術に新たな局面をもたらし、特に船団護衛において一定の効果を発揮しました。夜間においても敵潜水艦を捕捉・攻撃できる可能性が高まったことは、連合軍にとって大きな福音となりました。

ドイツ側の対抗策

しかし、戦争は技術革新の連続です。リー・ライトとレーダーの組み合わせによる脅威に対し、ナチス・ドイツは対抗策を講じました。1942年には、Uボートに搭載可能なレーダー警報受信機であるMetox (FuMB 1)を開発・配備しました。このMetoxは、接近する連合軍機のレーダー波を探知すると警報を発する装置でした。UボートはMetoxからの警報を受けると、直ちに急速潜航することで、リー・ライトによる発見や攻撃から逃れることができるようになりました。

Metoxの登場により、リー・ライトの奇襲効果は限定的なものとなりました。航空機がレーダーを使用し続ける限り、Uボート側は事前に対策をとることが可能になったのです。このドイツ側の技術的対応は、リー・ライトの有効性を相対的に低下させる結果となりました。

まとめ

リー・ライトは、その考案者ハンフリー・ド・バード・リーの独創的な発想から生まれ、第二次世界大戦において夜間の対潜戦を大きく変えた装備の一つです。軍当局の当初の無理解による導入遅延はありましたが、一度実戦に投入されると、航空機搭載レーダーと連携することで、夜間におけるUボートの活動を危険に晒しました。しかし、戦争中の技術競争の中でドイツ側がMetoxのような対抗策を開発したことにより、その優位性は永続しませんでした。それでもなお、リー・ライトは特定の期間、連合軍の対潜作戦において重要な役割を果たし、海上交通路の安全確保に貢献した歴史的な装備と言えるでしょう。

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