ルカニアのヴィトゥス

聖ヴィトゥス：信仰と伝説に彩られた殉教者

聖ヴィトゥス（ラテン語: Vitus、イタリア語: San Vito di Lucania、チェコ語: Svatý Vít、290年頃 - 303年）は、キリスト教の聖人であり、殉教者（致命者）として知られています。カトリック教会と正教会で聖人として崇敬されており、祝日は6月15日です。

迫害と殉教

ヴィトゥスは、ローマ皇帝ディオクレティアヌスとマクシミアヌスの共同統治時代の303年、キリスト教徒への迫害の最中に殉教したと伝えられています。彼の生涯については、6世紀から7世紀にかけて様々な逸話が生まれました。

伝説によれば、ヴィトゥスはルカニア地方の異教徒の支配者の息子として生まれました。父親からキリスト教信仰を捨てるように迫られましたが、彼は信仰を貫き、拷問にかけられました。信仰の師であるモデストゥス、乳母であるクレセンティアと共に逃亡しましたが、ディオクレティアヌス帝の皇子が所有する悪魔に取り憑かれてローマへ連行されました。

ローマで再び信仰を捨てるように迫られたヴィトゥスらは、再び拷問を受けましたが、奇跡が起こり天使によってルカニアへ送り返されました。しかし、最終的には拷問の末に斬首され、殉教を遂げました。

図像と象徴

ヴィトゥスは、絵画や彫刻では、釜茹でにされた姿や、ニワトリやライオンと共に描かれることが多いです。これは、ヴィトゥスが熱湯の煮えたぎる釜に投げ込まれましたが、奇跡的に無傷で済んだという伝説に基づいています。

信仰の広がり

ヴィトゥス信仰は、南イタリアとシチリアに急速に広まりました。ローマ教皇グレゴリウス1世は、シチリアにあったヴィトゥスに献堂された修道院について言及しています。ローマでも早い時期から聖人として崇敬され、ゲラシウス1世（在位492年-496年）はローマにあった彼の教会について記録しています。

756年、サン＝ドニ修道院の僧フルラドによって、聖ヴィトゥスの聖遺物がフランスに持ち込まれました。その後、サン＝ドニ修道院からドイツのコルヴァイ修道院へ聖遺物が贈られ、ヴェストファーレンやドイツ北部・東部へと信仰が広まりました。プラハにおける聖ヴィトゥス信仰の隆盛は、925年に東フランク王ハインリヒ1世がボヘミア公ヴァーツラフ1世へ聖人の手の骨を贈ったことに始まります。この聖遺物は現在、プラハの聖ヴィート大聖堂に安置されています。

スラヴの神との関連

ヴィトゥス信仰はスラヴ諸国で特に根強く、彼の名前（Sveti Vid）は、古代の異教の光の神スヴァントヴィド（Svantvid）信仰に置き換わりました。クロアチアには、123もの聖ヴィトゥスに献堂された教会が存在します。

守護聖人としての側面

中世後期、ドイツやラトビアなどでは、聖ヴィトゥスの像の前で踊って祝日を祝う習慣がありました。この踊りが、神経性の病気にみられる舞踏運動を『聖ヴィトゥスの踊り』と呼ぶ由来となりました。踊って祝日を祝った故事から、ヴィトゥスはダンサー、俳優、喜劇役者、てんかん患者の守護聖人とされています。また、雷や動物からの攻撃、過剰睡眠から守ってくれると信じられ、プラハとボヘミアの守護聖人でもあります。

聖ヴィトゥスは、その生涯と殉教、そして数々の奇跡と結びついた伝説を通して、多くの人々に信仰され、様々な形で崇敬されてきた聖人です。

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