ルクセンブルクの国章

ルクセンブルク国章：歴史と象徴が織りなす紋章学の傑作

1972年8月16日に制定されたルクセンブルクの国章は、単なる紋章を超え、同国の歴史とアイデンティティを鮮やかに表現した象徴と言えるでしょう。その基となっているのは、ルクセンブルク大公家の紋章、ナッサウ＝ヴァイルブルク家の紋章です。

国章の中心には、銀（白）と青の10本の横帯が水平に並んだ地があります。この上に、金の王冠をかぶり、赤い舌と爪を持つ赤い二頭のライオンが描かれています。この赤い二頭のライオンは、通称「リンブルクライオン」と呼ばれ、国章の重要な構成要素となっています。

リンブルクライオンの起源は1197年に遡ります。ルクセンブルク女伯エルメシンドがリンブルク公子ヴァルラム（後のヴァルラム3世）と結婚した際に、リンブルクの紋章である「銀地に王冠をかぶった赤い二尾獅子」が採用されたことに始まります。その後、二人の息子ハインリヒ5世はリンブルク公位を継承しませんでしたが、この紋章を基に、銀地に青い帯を加えることで独自の紋章を創り出しました。この紋章が、現在のルクセンブルク国章のデザインへと繋がっています。

国章の構成要素はライオンだけではありません。盾の上にはクラウンが置かれ、これはルクセンブルク大公の冠を表しています。また、盾を支える盾持ちは、二頭の二尾獅子です。興味深いことに、盾持ちの獅子の体の色と舌の色は、盾のライオンとは逆転しており、盾の獅子がランパント（左を向いて立ち上がる）であるのに対し、盾持ちの獅子は盾を抱え振り返る姿勢をとっています。こうした細部にも、歴史的・象徴的な意味が込められていると考えられます。

さらに、盾の周囲にはオーククラウン勲章が描かれています。これはルクセンブルクの騎士団勲章であり、ルクセンブルク国民のみならず、外国人にも授与される場合があります。この勲章の存在は、ルクセンブルクが国際社会との繋がりを重視していることを示唆していると言えるでしょう。

ルクセンブルク政府は、この国章を公式の場で使用します。しかし、大公には個別の紋章が存在することも特筆すべき点です。これらは、大公家の歴史と伝統をより深く反映したものであると考えられます。

このように、ルクセンブルクの国章は、単なる紋章のデザインにとどまらず、その歴史、伝統、そして国際的な繋がりを象徴する、奥深い意味を持つものです。その細部まで丁寧に作られたデザインからは、ルクセンブルクの人々の歴史とアイデンティティへの深い誇りが感じられます。

参考文献

苅安望 『世界の国旗と国章大図鑑 三訂版』 平凡社 ISBN 978-4-582-40735-8
印南博之『西洋紋章パヴィリオン その形や色に隠されたドラマ』 東京美術 ISBN 4-8087-0571-0

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