ルクレティアを手本とする女性の肖像

ルクレティアを手本とする女性の肖像

概要

『ルクレティアを手本とする女性の肖像』（伊: Ritratto di gentildonna nelle vesti di Lucrezia、英: Portrait of a Woman Inspired by Lucretia）は、イタリアの盛期ルネサンス期に活躍したヴェネツィア派の画家、ロレンツォ・ロットによって1530年から1533年ごろに制作された作品です。この油彩画は、結婚を記念して描かれた可能性が高く、モデルの女性は指に結婚指輪をはめています。1927年にはロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されることとなりました。

歴史と背景

本作は、18世紀末までヴェネツィアのぺーザロ・コレクションにあり、初めての記録はこの時期に遡ります。一つの可能性として、モデルの女性はルクレツィ・ヴァリエールであり、1533年にぺーザロ家と結婚したことが示されています。当初、この絵画はジョルジョーネの作品と考えられていましたが、後にロットのものと確認されました。

描かれている女性

描かれている女性は、ルクレティア（ラテン名ルクレツィア）と呼ばれ、自害する古代ローマの貞淑なヒロインを表しています。彼女は、ルクレティアの物語にちなみ、指で素描を指し示しています。ルクレティアは、王の息子セクストゥス・タルクィニウスに凌辱され、自らの名誉を守るために自害したことで知られ、この物語はルネサンス期の多くの詩人や画家によって取り上げられました。

画中のテーブルには、ルクレティアに関する引用文が記されており、モデルの女性の貞節と徳を示唆しています。また、テーブルの上にはスミレの花束も置かれ、貞淑さの象徴としての役割を果たしています。しかし、女性は絵画の中で犠牲者として描かれているわけではなく、力強い表情とまっすぐに鑑賞者を見つめる姿が、当時の女性像とは一線を画しています。

構図とスタイル

女性の表情や姿勢は非常に堂々としており、従来の肖像画のスタイルとは異なります。背景における窓の描写から、鑑賞者の空間が想像でき、女性の姿勢は左右非対称で、衣服や装飾品も同様です。彼女が着用している緑色とオレンジ色のドレスは、制作年の1530年代には流行遅れとされていたものですが、画面においては目を引く存在感を放っています。特に、頭に被ったターバンや華やかなペンダント、胸元を引き立てる金の鎖が印象的です。

この作品は、初期の女性肖像画において用いられた縦長のスタイルとは対照的に、横長のフォーマットを採用しています。ロットと同時代の芸術家たちが新たに創り出したこのスタイルは、肖像画の枠を超えて視野を広げる新たな可能性を示しています。テーブルの近くには空席の椅子が描かれており、モデル不在の夫を暗示しているとも考えられています。

最後に

『ルクレティアを手本とする女性の肖像』は、女性の強さや貞節を象徴的に描いているだけでなく、当時の肖像画の概念に新たな風を吹き込む作品です。ロットの技法やテーマを通して、観る者に深い感銘を与えるとともに、イタリアのルネサンス期の芸術の多様性を体現しています。

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