ルチアーノ・サルチェ

ルチアーノ・サルチェ（Luciano Salce）は、1922年9月25日にイタリアのローマで生まれた、多才な映画人でした。彼は監督、脚本家、そして俳優として、イタリア映画界、特にコメディの分野で重要な足跡を残しています。

彼のキャリアは、1946年、24歳の時にルイジ・ザンパ監督の作品『ヴァカンスのアメリカ人』に俳優として出演したことから始まりました。初期には主に俳優として活動の場を広げました。

1950年にはブラジルへと活動拠点を移し、そこでテアトロ・ブラジレイロ・デ・コメディアの芸術監督を務めます。このブラジル滞在中には、俳優として現地の映画に出演する傍ら、1953年には『バランスをとる蚤』で映画監督としての第一歩を踏み出しました。ブラジルでの経験は、彼の後の監督としてのキャリアに影響を与えたと考えられます。

1950年代後半にイタリアへ帰国した後も、サルチェは精力的に活動を続けました。ラジオ番組への出演に加え、俳優としてのキャリアも並行して築いていきます。そして、ブラジルで得た監督経験を活かし、イタリアでもメガホンを取るようになりました。彼が監督した作品は、俳優として出演した作品と同様に、コメディが中心でした。

監督としての代表作としては、権力に取りつかれた男を描いた『ファシスト』（1961年）、時代の風潮を捉えた青春コメディ『狂ったバカンス』（1962年）、スキーリゾートを舞台にした『スラローム』（1965年）などが挙げられます。中でも特筆すべきは、サラリーマンの悲哀をユーモラスに描いた『ファントッツィ』（1975年）とその続編『ファントッツィ二度目の悲劇』（1976年）です。これらの作品は、イタリアにおけるコメディ映画の金字塔として広く知られています。

また、俳優としては自身の監督作に限らず、ステーノ監督の『小さな郵便』や『守衛と泥棒と家政婦』、マリオ・マットリ監督の『海辺の典型たち』など、多数の作品に出演し、個性的な役柄を演じました。1960年代以降も、ルイジ・ザンパ監督の『セックス・パニック/愛欲のイタリア女族物語』などで存在感を示しています。

私生活においては、ディレッタ・ダンドレアと結婚し、後に俳優・映画監督となる息子エマヌエーレ・サルチェが1966年に生まれました。サルチェ夫妻は後に離婚しましたが、ディレッタは俳優のヴィットリオ・ガスマンと再婚し、息子エマヌエーレはガスマンの子どもたちと共に育てられたという背景があります。

ルチアーノ・サルチェは、1989年12月17日、故郷であるローマで、心筋梗塞のため67歳で亡くなりました。監督、脚本家、俳優として多岐にわたる才能を発揮し、特にイタリア式コメディの発展に大きく貢献した彼の業績は、今なお高く評価されています。

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