ルッジェーロ・リッチ

ルッジェーロ・リッチ：ヴァイオリンの巨匠、その生涯と功績

ルッジェーロ・リッチ（Ruggiero Ricci, 1918年7月24日 - 2012年8月6日）は、アメリカ合衆国出身のヴァイオリニストです。「ルジェーロ・リッチ」とも表記されます。少年時代から晩年に至るまで、そのキャリアは長く、レパートリーの広さと録音数の多さは特筆に値します。

生い立ちと神童時代

リッチは、カリフォルニア州サンブルーノでイタリア系移民の家庭に生まれました。ヴァイオリンは父親から手ほどきを受け、後に著名なヴァイオリン教師ルイス・パーシンガーの愛弟子となります。幼い頃から神童として注目を集め、1928年には10歳という若さでサンフランシスコにて公式デビュー。ヴィエニャフスキやヴュータンの作品を演奏し、その才能を世に示しました。翌年にはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をオーケストラと共演、その後カーネギー・ホールでのデビューも大成功を収め、その名を確固たるものとしました。

ヨーロッパでの研鑽と兵役

1930年代にはベルリンに留学し、ゲオルク・クーレンカンプらに師事。アドルフ・ブッシュ以降のドイツのヴァイオリン演奏様式を習得しました。第二次世界大戦中の1942年から1945年まではアメリカ軍に従軍し、慰問演奏を通じて兵士たちを励ましました。

パガニーニへの情熱と無伴奏作品の探求

除隊後の1947年、リッチはパガニーニの《24のカプリース》を初めて録音しました。また、19世紀の作曲家による無伴奏ヴァイオリン作品の発掘と演奏にも力を注ぎました。現代音楽にも積極的に取り組み、ヒナステラの協奏曲など、多くの作品を世界初演し、録音も残しています。

演奏活動と教育活動

ソリストとして70年以上の長きにわたり演奏活動を続け、65カ国以上で5000回を超える演奏会を行いました。また、数多くのレーベルから500点以上の録音作品を制作しました。教育者としても、インディアナ大学、ジュリアード音楽院、ミシガン州立大学などで後進の指導にあたりました。ザルツブルクのモーツァルテウム・アカデミーをはじめ、ヨーロッパ各地でマスタークラスも開催しました。楽譜出版社シルマーからは、左手の運指技術に関する著書も出版しています。

愛器と演奏スタイル

リッチは、グァルネリ・デル・ジェスを愛用していました。4度目のパガニーニの《カプリース》全曲録音の際には、イタリア・ジェノヴァよりパガニーニ自身が所有していたグァルネリが特別に貸与されました。

リッチの演奏スタイルは、19世紀ヨーロッパの伝統的な巨匠様式を受け継ぐものと評されています。美しい音色と華麗な演奏技巧、そして楽器を歌わせる独特の表現力が特徴です。特にパガニーニやサラサーテを得意とし、その演奏は多くの人々を魅了しました。室内楽も好んで演奏し、マルタ・アルゲリッチとの共演では、フランクとプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタを演奏し、高い評価を得ました。

晩年と遺産

2012年8月6日、ルッジェーロ・リッチは心不全のため94歳でこの世を去りました。彼の残した数々の録音は、今もなお多くのヴァイオリニストや音楽ファンに愛され、その演奏技術と音楽性は、後世に語り継がれています。

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