ルノー・アヴァンタイム

ルノー・アヴァンタイムは、フランスの自動車メーカーであるルノーがかつて製造・販売していた極めて個性的な車両です。ミニバンである3代目エスパスの基本構造を応用しながらも、その車体は常識を覆す3ドアクーペという異色のカテゴリーに属していました。

この車の開発は、当時のルノーのデザイン部門を率いていたパトリック・ルケマンによって推進されました。その独創的なコンセプトは、まず1999年3月のジュネーヴモーターショーでコンセプトモデルとして披露され、大きな話題を呼びました。その後、細部を詰めた生産型が2001年のパリサロンで公開され、市場への投入が開始されました。パワートレインには、力強い走行性能を期待させる3.0リットルのV型6気筒ガソリンエンジンが搭載されました。

アヴァンタイムの生産は、ルノーと提携関係にあり、当時エスパスの製造を担っていたマトラ・オートモビル社の工場で行われました。マトラはF1活動でも知られるエンジニアリング集団であり、その技術力がアヴァンタイムのような挑戦的な構造の実現に貢献したと言えます。

市場に登場したアヴァンタイムは、そのあまりにも前衛的なデザインとコンセプトゆえ、一部の熱狂的な自動車愛好家からは絶大な支持を得ました。しかし、幅広い顧客層に受け入れられることはなく、商業的な成功には残念ながら結びつきませんでした。販売台数は低迷し、それは生産を請け負っていたマトラに深刻な影響を与えます。ベース車両であるエスパスのモデルチェンジに伴い、ボディの組み立て方式が変更され、ルノー本体へと生産が引き継がれることが決定しました。これにより、アヴァンタイムの受注生産が途絶えたマトラは、ルノーとの協力関係を維持できなくなり、自動車製造事業からの撤退を余儀なくされました。

このような状況の中、アヴァンタイムは発売からわずか2年後の2003年に生産が打ち切られることとなりました。総生産台数は8,557台と、一般的な量産車としては極めて少ない台数に留まり、その希少性を際立たせています。

日本市場においては、2002年に正規輸入が開始されました。その後、ヨーロッパでの生産終了後も在庫販売が続けられ、最終的に車両が払い底する2005年夏頃まで販売されていました。日本に正規輸入されたアヴァンタイムの台数は、わずか206台でした。

アヴァンタイムには、その特異な構造に由来するユニークなエピソードがあります。広い室内空間と、乗り降りを容易にするための非常に大きなドアは、特に大柄な人々に歓迎されました。その中でも有名なのが、相撲界の力士たちに愛用者が多かったことです。元大関の小錦八十吉氏や元横綱の曙太郎氏など、複数の著名な力士がアヴァンタイムに乗っていたことはよく知られています。これは、単なるデザイン車としてだけでなく、実用的な側面でも独自の魅力を持っていたことを示す逸話と言えるでしょう。

「AVANTIME」という車名は、その挑戦的な性格をよく表しています。フランス語で「前衛」を意味する「avant-garde」と、英語で「時代」を意味する「time」を組み合わせた造語であり、「時代を切り拓く前衛的な車」となることを目指して名付けられました。短い製造期間であったにも関わらず、アヴァンタイムはその大胆なコンセプトとデザインで、ルノーの創造性や自動車デザインの可能性を示す一台として、今なお多くの人々の記憶に残る特別な存在となっています。

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