ルノー1世 (ダンマルタン伯)

ルノー・ド・ダンマルタン（Renaud de Dammartin, 1165年頃 - 1227年）は、中世フランスの有力貴族であり、ブローニュ伯、ダンマルタン伯、そして短期間ながらオマール伯の地位を保持しました。ダンマルタン伯アルベリク3世とクレルモン出身のマティルドの間に生まれた彼は、フランス王フィリップ2世の幼なじみとして宮廷で育ちました。しかし、その後の人生は、王との関係、領土を巡る争い、そして数々の策略によって彩られることとなります。

生涯

ルノーの初期の動向は、父アルベリクの意向により、フランス王家ではなくプランタジネット家の側で戦ったという特異なものでした。しかし、後にフィリップ2世の信頼を取り戻し、王の従姉妹アデル・ド・ドルーの娘、マリー・ド・シャティヨンと結婚します。この結婚は、ルノーが再び王家との絆を強めるきっかけとなりました。

1191年、ルノーの父アルベリクは、ブローニュ女伯イドを誘拐するという大胆な行動に出ます。そして、ルノーとイドを結婚させることで、ブローニュ伯領はフランドル伯の支配下からフランス王の家臣の支配下へと移ります。この結婚はルノーに大きな権力をもたらしましたが、同時に、ドルー家やイドの婚約者であったギーニュ伯との対立を生むことになりました。

1203年、ルノーとその妻イドはブローニュに商業特許状を与えます。この特許状は、おそらく財政的な理由によるものと考えられています。フィリップ2世は翌年、ルノーをオマール伯に叙任しますが、ルノーは王との距離を置くようになります。1204年4月のノルマンディー獲得後、フィリップ2世はルノーにモルタン伯領とワレンヌ領を与えます。これらの領地は、かつてブローニュ伯ギヨーム1世が所有していたものであり、フィリップ2世はブローニュ伯のこれらの領地に対する権利を認めていたとみられます。

1211年、ルノーはボーヴェ司教フィリップ・ド・ドルーとの訴訟において、フィリップ2世の召喚に応じることを拒否しました。これに対し、フィリップ2世はルノーの領地を占領しました。1212年5月4日、ルノーは、同じくフィリップ2世によって領地を奪われていたイングランド王ジョンと同盟を結びます。ルノーはフランドル伯を含む他の大陸貴族をジョンと同盟させ、フィリップ2世に対抗しようとしました。その見返りとして、ルノーはイングランドから領地と年金を与えられ、互いにフランスと個別に和平を結ばないことを約束しました。

ルノーは、神聖ローマ皇帝オットー4世やフランドル伯フェランと共に、1214年にフランスへの攻撃に加わり、ブーヴィーヌの戦いへと至ります。この戦いで、ルノーは傭兵部隊（ブラバンソン）を指揮しましたが、最終的に敗北を喫します。しかし、ルノーは最後まで降伏を拒否し、フィリップ2世への服従を拒みました。この結果、彼の領地は没収され、フィリップ・ユルプルに与えられます。ルノーはその後、ペロンヌの要塞に幽閉され、後にル・グレの要塞へと移されました。幽閉生活の中で彼は絶望し、最終的に自殺という形でその生涯を終えました。彼の娘マティルドは、フィリップ・ユルプルと結婚しました。

このように、ルノー・ド・ダンマルタンは、その生涯を通じて権力と領土を求め、様々な策略と戦いに巻き込まれました。その行動は、中世フランスの複雑な政治状況と、貴族たちの野望を象徴していると言えるでしょう。

脚注

ルノーの生涯は、同時代の年代記や文書に断片的に記録されています。その行動はしばしば、当時の政治的駆け引きや貴族間の利害関係の中で解釈される必要があります。
ブーヴィーヌの戦いは、中世ヨーロッパの歴史における重要な転換点であり、ルノーの敗北は、彼の勢力の衰退を決定づけるものでした。

参考文献

Baldwin, John W. (2002). Aristocratic Life in Medieval France: The Romances of Jean Renart and Gerbert de Montreuil, 1190-1230. The Johns Hopkins University Press
Grant, Lindy (2005). Architecture and society in Normandy 1120-1270. Yale University Press
* Handyside, Philip D. (2015). The Old French William of Tyre. Brill

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