レッド・プラネット (SF小説)

『レッド・プラネット』

ロバート・A・ハインラインの長編SF小説『レッド・プラネット』（原題：Red Planet）は、人類が火星へと進出し、新たな居住地を築いた未来世界を舞台にしたジュブナイル作品です。火星シリーズとして名高いハインラインの作品群の一つであり、若き主人公たちが直面する困難と、それに立ち向かう勇気、友情、そして未知との遭遇を描いています。

物語の中心となるのは、火星の教育機関であるローエル・アカデミーで学ぶ二人の親友、ジム・マーロウとフランク・サットンです。彼らはアカデミーの寮で生活していましたが、ある時、新任のマルキーズ・ハウ校長と、火星開発事業を統括するゲインズ・ビーチャー総支局長が極秘裏に進めている計画について、偶然耳にしてしまいます。その計画とは、火星の入植者たちの生活を根底から覆す「移住禁止政策」でした。

火星という惑星は、地球とは比較にならないほど過酷な環境であり、入植者たちは季節の変化に応じて、より温暖な地域へ移動することで生命を繋いでいました。この「移住禁止政策」が実行されれば、住民たちは冬季の極寒から逃れる術を失い、多くの犠牲者が出ることが予想されます。この非情な計画を知ったジムとフランクは、危機に瀕したコロニーの住民たちへ一刻も早く情報を伝える必要性を痛感します。

しかし、アカデミーでは通信手段が厳しく管理されており、外部との連絡は絶望的でした。他の選択肢がないことを悟った二人は、自らの命を賭して学校を脱出し、遠く離れた入植地を目指すという、極めて危険な決断を下します。こうして、ジムとフランクの、火星の広大な荒野を横断する決死のサバイバル冒険が始まるのです。彼らの行く手には、凍てつく気温、希薄な大気、そして予測不能な自然の脅威が待ち受けます。

この過酷な旅の途中で、二人は火星に固有の生命体である「ウィリス」と出会います。ウィリスは人間とは全く異なる生態を持つ存在ですが、特筆すべきは、人間や周囲の音、特に会話や音楽を記憶し、模倣する不思議な能力を持っていることです。ウィリスとの遭遇は、単なるサバイバル行では終わらない、物語に新たな局面をもたらします。異星の生命体との交流は、相互理解や共存の可能性といった、より深いテーマを作品に与えます。

本作は、単に物理的な冒険を描くだけでなく、若者が困難に立ち向かう中で友情を深め、成長していく姿を丁寧に追っています。また、大人たちの都合や権力闘争に翻弄される子供たちの視点から、社会の不条理を描写する側面も持ち合わせています。ジムとフランクは、自分たちの手で状況を切り開こうとする強い意志と、持ち前の勇気で、想像を絶する試練を乗り越えていきます。

物語の主要な登場人物は以下の通りです。

ジム・マーロウ: 本作の主人公。強い正義感を持ち、危険な旅を決断する中心人物です。
フランク・サットン: ジムの親友であり、共に困難な冒険に立ち向かう頼れる存在です。
マルキーズ・ハウ: ローエル・アカデミーの新任校長。火星カンパニーの意向を受け、「移住禁止政策」に関与します。
ゲインズ・ビーチャー: 火星カンパニーの総支局長。「移住禁止政策」を主導する権力者です。
* ウィリス: 火星の原住生物。独特の能力を持ち、物語の重要な鍵となります。

『レッド・プラネット』は、ハインラインらしい科学的なリアリティと、若い読者を引き込むスリリングな展開が見事に融合した傑作です。日本語訳は山田順子氏によって手掛けられ、創元SF文庫から1985年5月に出版されています。火星という魅力的な舞台設定と、少年たちの勇気ある行動、そして未知との出会いが織りなす物語は、今も多くのSFファンに愛されています。

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