レーヴィ・マデトヤ

レーヴィ・アンッティ・マデトヤ

レーヴィ・アンッティ・マデトヤ（Leevi Antti Madetoja, 1887年2月17日 - 1947年10月6日）は、20世紀前半に活動したフィンランドを代表する作曲家であり、音楽教育者としても多くの後進を育てました。現在のオウルで、ヒュッティネン家の子として生まれ、後にマデトヤという姓を名乗るようになりました。フィンランドの音楽史において、国民楽派の巨匠ジャン・シベリウスの数少ない弟子の一人として、その名を知られています。

音楽への道のりと海外での研鑽

マデトヤは、ヘルシンキにおいてフィンランド音楽界の重鎮であったジャン・シベリウスのもとで作曲を学びました。その後、彼の音楽的視野を広げるため、1910年から1912年にかけてヨーロッパの主要都市を巡る旅に出ます。芸術の都パリをはじめ、ウィーンやベルリンといった音楽的伝統の深い土地での経験は、当時の最先端の音楽潮流に触れる貴重な機会となり、彼の作曲家としてのスタイル形成に大きな影響を与えたと考えられています。この時期に得た国際的な感覚は、後の作品にも活かされることになります。

多岐にわたる作品群

フィンランドへ帰国したマデトヤは、本格的に作曲活動に入りました。彼の作品は多岐にわたり、交響曲、オペラ、バレエ音楽、管弦楽曲、室内楽曲、ピアノ曲など、幅広いジャンルにわたっています。中でも、完成された3曲の交響曲（第1番、第2番、第3番）は、シベリウス譲りの構築性と、彼自身の持ち味である豊かな叙情性が融合した重要な作品として評価されています。

国民的叙事詩「カレワラ」の世界からインスピレーションを得た交響詩『クレルヴォ』は、シベリウスにも同名の作品がありますが、マデトヤ版もまた独特の魅力を持っています。オペラの分野では、故郷であるオストロボスニア地方の人々の力強さや情感を描いた『オストロボスニアの人々』がフィンランドにおける国民オペラの一つとして広く知られ、上演され続けています。さらに後年には、悲劇的な物語を描いたオペラ『ユハ』も手掛けています。

彼の創作活動において特筆すべきは、異国情緒あふれるバレエ音楽『オコン・フオコ』でしょう。遠い東の国、日本を舞台としたこの作品は、当時のフィンランド音楽としては非常に珍しいテーマであり、マデトヤの異文化への関心と想像力の広さを示すものです。

また、彼の作品には一つの悲劇的なエピソードが伴います。作曲を進めていた交響曲第4番の楽譜が、1938年にパリの駅で盗難に遭い、そのまま行方不明となってしまったと伝えられています。この未完に終わった作品の喪失は、フィンランド音楽史における大きな損失と言えるでしょう。

教育活動と私生活

マデトヤは作曲家としての活動と並行し、教育者としても熱心でした。フィンランド国内の音楽学校で多くの弟子を指導したほか、一時期は遠く海を渡りアメリカ合衆国でも教鞭を執り、次世代の音楽家育成に尽力しました。

私生活では、L. オネルヴァという筆名で活躍した女性作家、ヒルヤ・レヘティネンと結婚しています。芸術分野で活動する妻との生活は、彼の創作にも少なからず影響を与えたかもしれません。

フィンランド音楽史における位置づけ

レーヴィ・マデトヤは、ジャン・シベリウスという偉大な存在の陰に隠れがちではありますが、フィンランド音楽史においては極めて重要な作曲家です。彼の作品は、フィンランドの風景や歴史、人々の精神に深く根差していながら、ヨーロッパの音楽語法を巧みに取り入れた独自のスタイルを確立しています。特にオペラや交響曲の分野での功績は大きく、その作品は今日でも世界各地で演奏され、彼の豊かな創造性とフィンランド音楽への貢献を伝えています。交響曲第4番の消失は惜しまれますが、現存する彼の多種多様な作品は、フィンランド音楽の多様性と深さを示す証となっています。

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