ロゴスの市

ロゴスの市

『ロゴスの市』は、乙川優三郎が手掛けた恋愛小説で、2017年に島清恋愛文学賞を受賞し、2018年には徳間文庫から刊行されました。本作は、現代を舞台にした短編集『太陽は気を失う』に続く長編作品であり、作品タイトルの「ロゴス」は言葉や真理を意味しています。

あらすじ

物語の中心となるのは、20歳の時に出会った成川弘之と戒能悠子の、約30年にわたる波乱に満ちた恋の歴史です。時は昭和55年、成川は三鷹の大学に通っており、ペンクラブというサークルで戒能と出会います。戒能は当時アルバイトでさまざまな翻訳を手伝っており、成川の誘いによって彼の人生に大きな影響を与えることになります。彼女との出会いを契機に、成川は翻訳家になる夢を描き始め、2人は英語を通じて深い絆を結んでいきます。

この２人の関係において、御宿で行われたペンクラブの夏合宿が非常に重要な思い出となります。卒業後、成川は大学の恩師の助手となり翻訳活動に励む一方、戒能は渡米。彼女は同時通訳者として成功への道を歩み始めます。お互いに近況を報告し合った後、春に再会する約束をするものの、運命のいたずらで待望の再会は叶わず。

ある秋の日、成川はアパートに戻ると、戒能が待っていました。彼女は多忙な日々を過ごしており、近況や懐かしい合宿の思い出を語ります。しかし、その日を境に2人の距離は急速に広がっていきます。戒能の結婚の知らせを聞き、成川は複雑な思いに取り乱すものの、彼女の家庭の事情を理解し、心の中で受け入れていくこととなります。

成川はドイツで開催される世界最大のブックフェアに参加し、そこで新たな成長を遂げます。シンポジウムの際に戒能と再会し、久しぶりの交流を楽しみます。この時、成川は彼女の結婚について疑問を投げかけますが、成川自身は図書館司書の谷本恵理との出会いを果たし、彼女と結婚することになります。成川はひとつの家族を築きますが、戒能は自身の夫との離婚に直面します。

戒能は外務省からの仕事を経て、政治家たちから高く評価される同時通訳者となります。成川は平穏な日常を送っていましたが、ある日彼女から思わぬ電話が入ります。「助けて、あなたしかいないの」と。

彼女は体調を崩し、成川が看病に向かいます。その後、2人は再びドイツのブックフェアで再会し、思い出深い日々を共に過ごします。そして成川は毎年、ビーチでの仕事の間に戒能を訪れるようになります。

しかし、ある夏、成川は戒能が飛行機事故に遭遇し亡くなったという衝撃的なニュースを受け取ります。さらに、戒能が成川の子供を海外で出産し、自身の秘密や彼への愛情を伝えていたことが明らかになります。彼女の思い出と共に、成川の心の中には戒能への深い愛と許しの気持ちが残り続けるのです。

登場人物

• - 成川弘之: のんびりとした性格の翻訳家。夏に御宿町で仕事をすることを習慣としている。
• - 戒能悠子: せっかちで優秀な同時通訳者。大学時代は翻訳のバイトをしていた。
• - 田上: 大学時代の友人で出版社勤務。
• - 依田佐代子: 翻訳家の友人で、戒能の親友。シスターとして活動している。
• - 谷本恵理: 成川の妻で図書館司書。

本作は、愛と悲しみ、成長と再会の物語を通じて、人生の宿命的なつながりを描いています。

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