ロシアのウクライナ侵攻とウィキペディア

2022年ロシアのウクライナ侵攻とウィキペディア

2022年、ロシアによるウクライナ侵攻は、世界中の人々に大きな衝撃を与えました。この出来事は、オンライン百科事典であるウィキペディアにも大きな影響を及ぼしました。多くの言語版ウィキペディアで侵攻に関する記事が作成・編集され、その詳細な情報が広く共有される一方、ロシア政府はこれらの情報に強く反発し、検閲や罰金などの圧力を加えました。

歴史的経緯

ロシア政府による検閲と圧力

侵攻開始から1週間後の2022年3月1日、ロシア語版ウィキペディアはロシア政府による検閲の対象となりました。政府は、侵攻に関する記事にロシア側の死傷者数やウクライナ市民の状況といった「違法に拡散された情報」が含まれていると主張し、国内からのアクセスを遮断しようとしました。この検閲を恐れ、ロシア語版ウィキペディアのオフライン利用を目的としたダウンロードは急増し、侵攻開始から3月前半にかけて10万件以上ダウンロードされました。

また、ベラルーシでは、侵攻に関する編集履歴を公開されたロシア語版ウィキペディアの編集者マルク・ベルンシュテインが逮捕されました。これは、ウィキペディアの編集活動が個人の安全を脅かす可能性を示唆する出来事でした。

ロシア政府の情報戦とウィキペディア

ロシア政府関係者は、ウィキペディアが「ロシアに対する情報戦の橋頭堡」になっていると批判し、記事を「政治的な編集」をしているユーザーを特定したと主張しました。また、親クレムリン組織がウィキペディア編集者を含む「ロシアへの情報攻撃の協力者」の特定を試みていると報道されました。さらに、ロシア特別通信局の職員がウィキペディアを使い、親クレムリンのプロパガンダを拡散しようとしているという報道もなされました。

2022年3月31日、ロシアの通信・情報技術・マスコミ分野監督庁は、ウィキペディアに対し、ロシア人に「誤解を与えている」侵攻に関する情報を削除するよう要求しました。これに応じない場合、最大400万ルーブルの罰金が科せられると警告しました。しかし、ウィキメディア財団は、ロシアの人々には侵攻に関する事実を知る権利があると主張し、この要求を拒否しました。

親ロシアの偽情報とウィキペディア

2022年4月には、親ロシアの偽情報がウィキメディアの少なくとも625の記事で引用されていることが明らかになりました。これらの引用の多くは、ロシア語版、アラビア語版、スペイン語版、ポルトガル語版、ベトナム語版に存在し、英語版ではほとんどが削除されていました。

ロシア政府によるウィキペディア記事の禁止

2022年4月から5月にかけて、ロシア当局はウィキペディアの複数の記事を禁止リストに掲載しました。これらの記事には、2022年ロシアのウクライナ侵攻、ラシズム、ウクライナ紛争での軍事行動と戦争犯罪に関するロシア語版記事、そしてロシア語版ウラジーミル・プーチンの記事の一部が含まれていました。

ウィキメディア財団への罰金と反論

2022年5月、ウィキメディア財団は、ロシアのウクライナ侵攻に関する記事の件で500万ルーブルの罰金を科せられました。ロシアは、ウィキペディアを含むプラットフォーム上で1660万もの「偽情報」を拡散する投稿があったと主張しました。これに対し、ウィキメディア財団は、情報は事実に基づいたもので、ボランティアの検証を受けており、その削除は人々の表現の自由を侵害すると反論しました。その後もウィキメディア財団への罰金は続き、2022年11月には200万ルーブル、2023年2月には200万ルーブル、さらに4月には80万ルーブルと200万ルーブルの罰金が科せられました。

ロシア政府によるウィキペディアへの圧力強化

2022年7月20日、ロシアの通信・情報技術・マスコミ分野監督庁は、ウィキペディアがウクライナ紛争に関する記事の削除を拒否したとして、検索エンジンに対しウィキペディアを違法サイトと表示するよう命令しました。

ウィキペディア側の反応

この状況に対し、グルジア語版およびウクライナ語版ウィキペディアは、ロゴをウクライナの国旗と同じ青黄色のものに変更しました。また、ウィキメディア財団は、「自由で開かれた知識へのアクセスを続け」、「紛争をただちに、平和的に解決するよう」呼びかける声明を発表しました。

まとめ

2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、ウィキペディアというオンライン百科事典が、単なる情報源としてだけでなく、情報統制や検閲との戦いの場としても機能していることを示しました。ウィキメディア財団は、ロシア政府の圧力に屈せず、表現の自由と知識へのアクセスを守る姿勢を貫いています。

脚注

参照：dsc (2022年3月2日). “Russland droht Wikipedia mit Sperre – wenn weiter über Kriegsopfer informiert wird [Russia threatens to block Wikipedia - if they continue to inform about the casualties of the war]” (ドイツ語). watson (news portal) (Zürich, Switzerland: FixxPunkt AG). オリジナルの2022年3月20日時点におけるアーカイブ。
参照：“Informationskrieg: Russland will Wikipedia sperren [Information war: Russia wants to block Wikipedia]” (ドイツ語). netzwoche (Zürich, Switzerland: Netzmedien AG). (2022年3月3日). オリジナルの2022年3月20日時点におけるアーカイブ。
* 参照：“Russia demands Wikipedia remove 'misinformation' on Ukraine invasion”. Jerusalem Post (April 1, 2022).

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