ロシアの茶文化

ロシアにおける茶は、今日では国民的な飲料として広く親しまれています。その歴史は17世紀に遡り、キャラバン隊による中国からの輸入が始まりでした。19世紀には都市部を中心に一般の人々にも普及し、独自の茶文化が形成されました。特に、給湯器として使われるサモワールは、ロシアの茶文化を象徴する存在です。

歴史

初期の接触

ロシア人が初めて茶に触れたのは、16世紀にコサックの指導者が中国を訪れた際であるという説が広まっていましたが、これは伝説に過ぎないとされています。実際には、1638年にモンゴルの君主からロシアの皇帝に茶が贈られたことが、茶文化発展のきっかけとなりました。当初、茶葉は価値を認められず、受け取りを拒否されましたが、最終的には持ち帰られ、ロシアに導入されました。

茶の輸入と普及

1679年、ロシアは中国との間で定期的な茶の供給に関する条約を締結し、毛皮と茶を交換するようになりました。しかし、輸送路の過酷さから茶葉の価格は高騰し、当初は皇族や富裕層の間でのみ嗜まれていました。17世紀後半には医学書に「茶」の記述が登場しています。

18世紀に入ると、ロシアは中国へのキャラバン隊を派遣し、茶の輸入を本格化させました。特にエカチェリーナ2世の時代には、茶の輸入量が大幅に増加し、価格も下落したことで、中流階級や下流階級にも普及しました。1824年にはキャフタでの茶貿易が最盛期を迎えましたが、1880年代にシベリア鉄道が開通すると、キャラバン隊による輸送は衰退しました。鉄道の導入により、茶の輸送期間は大幅に短縮され、輸入量はさらに増加しました。

近代

19世紀中頃には、中国からの輸入量が減少し、ロシアはオデッサやロンドンからの輸入を増やしました。20世紀初頭には、ヴィソツキー・ティーがロシア最大の茶会社となり、世界的な茶の生産企業となりました。また、ロシア国内での茶の栽培も始まり、ニキーツク植物園や産業用の農園が設立されました。2002年、ロシアの茶の輸入量は162,000トンに達しました。

茶の種類

ロシアの伝統的な茶として知られる「ロシアンキャラバン」は、キャラバン隊によって運ばれる間に焚き火の煙によって独特の燻製香がついたとされています。現在では、意図的に燻製風味を加えて作られることが多く、祁門紅茶や、黒茶、烏龍[[茶]]、正山小種などが用いられます。

茶文化

ロシアの喫茶習慣

19世紀には、茶は中産階級を中心に生活に欠かせないものとなり、喫茶習慣は文化的な要素として重要視されるようになりました。サモワールは、茶を飲む際に欠かせない道具として、ロシア文学にも頻繁に登場します。また、角砂糖を歯に挟んで茶を飲む習慣も、当時の特徴的な風習です。現在でもこの習慣は一部で残っています。地域によっては、紅茶にジャムを入れるのではなく、ジャムを添えて茶菓子として楽しむ習慣もあります。

ソ連時代

ソ連時代には、事務職の間でお茶を飲むことが日常的な習慣となり、茶には「ほうき」や「ゾウのお茶」などの愛称が付けられました。1960年代から70年代にかけては、インテリ層にとってキッチンライフに欠かせない要素となりました。また、刑務所では、アルコールの代わりに濃縮したお茶であるチフィールが嗜まれています。

現代

2019年にはロシア国内でのコーヒー消費量が初めて茶を上回りましたが、現在でも茶は依然として重要な飲み物です。近年では、伝統的なサモワールではなく、英国風のティーポットで茶を入れる家庭も増えています。

他国における「ロシアンティー」

アメリカ

アメリカには「ロシアンティー」と呼ばれる飲み物がありますが、これはロシアの紅茶とは全く異なるものです。主にアメリカ南部で人気があり、クリスマスシーズンによく飲まれます。紅茶の茶葉、オレンジジュース、シナモン、クローブなどを混ぜて作られ、インスタントティーやレモン、パイナップルのジュース、クリームなどが使われることもあります。「ロシアンティー」という名称にもかかわらず、ロシアの伝統的な紅茶とは関係ありません。

日本

日本では、「ロシアンティー」はジャム入りの紅茶を指すことが一般的です。特にいちごジャムがよく用いられますが、必ずしもこれを使う必要はありません。ロシアの喫茶習慣とは異なり、ジャムを紅茶に入れるスタイルが「ロシアンティー」と呼ばれています。

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