ロストワールド (漫画)

手塚治虫『ロストワールド』：多様なバージョンと魅力的な世界観

手塚治虫の代表作の一つ『ロストワールド』は、その複数のバージョンと魅力的な物語で知られています。一般的に『ロストワールド』といえば、1948年に不二書房から出版された単行本を指しますが、これは手塚が少年時代から書きためていた私家版を基に、商業誌向けに改稿されたものです。

５つの『ロストワールド』

手塚治虫は『ロストワールド』を5回にわたって執筆しており、そのうち4つが公表されています。

1. 私家版: 北野中学時代（もしくは戦後）に執筆された最古の版。商業出版を意図せず、後に単行本化、全集収録されましたが、一部欠損しています。
2. 私家版改訂版: 戦時中（もしくは戦後）に執筆、本格的な装丁で友人の間で読まれましたが、現存しません。
3. 関西輿論新聞版: 1946年から連載されましたが、紙不足により未完に終わりました。一部が欠損した状態で残存し、後に『手塚治虫アーリーワークス』に収録されました。
4. 不二書房版: 1948年刊行の単行本。一般に知られる『ロストワールド』で、何度も復刻されています。
5. 冒険王版: 1955年に『前世紀星』のタイトルで連載された未完の作品。

これらのバージョンは全体的なストーリーは共通していますが、主人公の年齢、流血シーンの有無、恋愛描写など、細部の描写は微妙に異なっています。

私家版と不二書房版の比較

私家版と不二書房版を比較すると、手塚治虫の作家としての成長が見て取れます。私家版の主人公敷島博士は青年で、流血シーンも多く、恋愛描写も直接的です。一方、不二書房版では博士は少年となり、流血シーンは減り、恋愛描写は間接的になっています。この違いは、アマチュアとプロの差、戦前と戦後の時代の変化、そして手塚自身の目指す漫画像の変化などが要因として考えられます。

ストーリー（不二書房版）

500万年ぶりに地球に接近したママンゴ星。少年科学者敷島健一は、同星から飛来した隕石から莫大なエネルギーを得る方法を発見します。しかし、この事実を知った秘密結社が隕石を狙い、私立探偵ヒゲオヤジ、改造ウサギのミイちゃんらが巻き込まれていきます。

地球編: 隕石をめぐる秘密結社との戦いを描きます。

宇宙編: 敷島博士は隕石のエネルギーで宇宙ロケットを建造し、ママンゴ星探検に出発。恐竜が闊歩する太古の世界で、再び秘密結社との戦いが繰り広げられ、多くの犠牲者が出ます。敷島博士と植物人間のあやめはママンゴ星に取り残され、ヒゲオヤジだけが地球に帰還します。

登場人物

本作品には、手塚スターシステムの代表的なキャラクターが登場します。不二書房版では、ほとんどのキャラクターは既デビュー済でしたが、私家版での出演をもってデビューとみなす資料もあります。関西輿論新聞版では、ヒゲオヤジ、アセチレン・ランプ、ブタモ・マケルが登場し、敷島博士は青年として描かれています。

代表的なキャラクターには、私立探偵ヒゲオヤジ、少年科学者敷島健一（私家版では敷島鵬翼）、改造ウサギのミイちゃん（本名耳男）、植物学者豚藻負児、秘密結社メンバー（アフィル、カオー・セッケン、グラターン、ホールスなど）、敷島博士の友人や部下（山野穴太、大場加三太郎、力有武、花輪重志など）、植物人間であるあやめともみじ、新聞記者アセチレン・ランプ、そして敷島博士の友人である邪我汰良平らがいます。

まとめ

『ロストワールド』は、手塚治虫の初期SF漫画として高く評価され、現在でも多くの読者に愛されています。複数のバージョンが存在すること、そして、その違いから手塚自身の成長や時代の変化を読み解くことができる点も、この作品の魅力の一つです。また、個性豊かなキャラクターや、魅力的なストーリーも、作品を彩る重要な要素となっています。手塚作品の中でも特に多様な解釈が可能な、奥深い作品と言えます。

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