ロスト・ワールド -ジュラシック・パーク2-

『ロスト・ワールド -ジュラシック・パーク2-』

マイケル・クライトンが1995年に発表した長編小説で、ベストセラーとなった前作『ジュラシック・パーク』の続編にあたります。本作は、クライトンにとって自身の手がけた作品の続編を執筆するという初めての試みでした。スティーヴン・スピルバーグ監督によって『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』として映画化されましたが、その内容は小説版と大幅に異なります。

タイトルの「ロスト・ワールド」は、恐竜などの太古の生物が生き残る未知の世界を描いたアーサー・コナン・ドイルの同名小説に敬意を表し、意図的に名付けられています。物語は前作の数年後を舞台とし、主人公は前作にも登場した数学者イアン・マルコムが務めます。前作の舞台であったイスラ・ヌブラル島の近隣にある、コードネーム「サイトB」と呼ばれるイスラ・ソルナ島が主な舞台となります。この島は、ジュラシック・パーク開園に先立ち、インジェン社が恐竜の復活・飼育に関する初期研究や繁殖を行っていた秘密の施設跡地という設定です。

小説版の大きな特徴として、生物の進化や絶滅、生態系のバランスといったテーマに対し、クライトン独自の科学的仮説（特にカオス理論やその応用としての「カオスの縁理論」）を物語の根幹に据えている点が挙げられます。これは、アクションやパニック要素が強調された映画版との顕著な相違点です。

前作との差異

物語の整合性に関して、小説版は前作の結末描写といくつかの点で差異が見られます。

イアン・マルコムの生死: 前作ではティラノサウルスに襲われた傷が致命傷となり、死亡したかのように描写されたマルコムですが、本作では実際には軍によって救出され、奇跡的に蘇生したことになっています。前作での描写は昏睡状態に陥った時点までであり、その後の生還の可能性を否定しない形で物語は進みます。
生存者の処遇: 前作のラストでは、パーク事件の生存者たち（グラント博士を含む）が情報漏洩を防ぐために厳重な監視下に置かれる可能性が示唆されていましたが、本作では特殊な取引によって釈放されたとされています（ただし、マルコム以外の前作主要人物は直接登場しません）。
マーティン・ギティエレス: 前作では短い登場シーンしかなかったコスタリカの生物学者ギティエレス博士が、本作では物語の重要なキーパーソンの一人として関わります。
サラ・ハーディング: 主要人物の一人である動物行動学者サラ・ハーディングは、前作に登場した獣医師ジェリー・ハーディングの娘である可能性を示唆する台詞が登場します。
恐竜の色彩: ヴェロキラプトルや、本作で初登場するカルノタウルスなどは、イグアナのような緑色に縞模様の保護色を持つ体色として描写されます。これは、前作で描かれたラプトルの体色とは異なります。

登場人物

イアン・マルコム: 数学者。前作の危機を乗り越え生還した主人公。以前のやや軽薄な面影は薄れ、より真面目で勇敢な人物として描かれます。足に負った怪我のため杖を使用。サンタフェ研究所でレヴィンからサイトBの存在を知らされ、絶滅現象におけるカオス理論の応用を探求すべく、最初は渋々ながら調査に協力します。映画版とは性格設定が大きく異なります。愛車はフォードのセダン。
リチャード・レヴィン: 衝動的で自己中心的な古生物学者。同世代では最高の学者と称される一方で、他の研究者を軽視する「名うての嫌われ者」でもあります。裕福な家庭の出身で、神経質な一面も持ち合わせています。サイトBに最初に潜入しますが、机上の理論だけでは極限状況に対応できない面が露呈します。映画版には登場しません。愛車はフェラーリ。
サラ・ハーディング: 動物行動学者。ケニアでハイエナの研究に従事していました。レヴィンとは対照的に、現場での経験を重視する現実的な研究者であり、困難な状況で勇敢な行動をとります。異常な生態系を持つサイトBの恐竜たちの将来に危機感を抱きます。映画版ではマルコムの恋人という設定です。
ジャック・ソーン: 元工学博士で、現在は探検用特殊車両や装備の開発会社を経営。「ドック」と呼ばれます。調査隊の中では最も常識的で年長者であり、理論より現場での対応能力を重視する人物です。困難な状況でも冷静に対処します。映画版には登場せず、エディが一部の役割を引き継いでいます。
エディ・カー: ソーンの有能な助手。メカニックの天才であり、どんな機械も修理できます。都会育ちで自然環境には不安を感じますが、その慎重さが調査に役立つ場面もあります。強い正義感を持ち、仲間を守るためにラプトルと戦い命を落とします。映画版にも登場しますが、年齢設定などが異なります。
アーヴィー・ベントン: 中学生の天才ハッカー。レヴィンの助手を務めます。学校では浮いた存在ですが、電子世界では自信家です。危険を察知し、ソーンやエディに守られます。
ケリー・カーティス: 中学生。数学が得意なことにコンプレックスを持つ少女で、アービーと共にレヴィンの助手となります。家庭環境が複雑で、アービーの裕福な家庭に反感を抱くこともあります。サラ・ハーディングを英雄視しており、恐竜も好きです。物語終盤で機転を利かせて一行を救います。映画版ではマルコムの娘という設定で、人種も異なります。
ルイス・ドジスン: バイオシン・コーポレーションの遺伝学者。前作での失敗の雪辱を果たすべく、恐竜が生き残る島を探索し、今回は恐竜の卵を直接狙います。悪役としてさらに描写が強化されており、殺人未遂も犯すなど極めて自己中心的で危険な人物です。
ハワード・キング: バイオシン社員。ドジスンの部下として行動を共にしますが、ドジスンの非道なやり方に不満を抱いています。前作のヘンリー・ウーに似た役割を担います。
ジョージ・ベイゼルトン: 著名な生物学者。マスコミ慣れしており、ジュラシック・パーク事件の隠蔽に協力した人物の一人。特定の学説（例：ティラノサウルスの視覚）を盲信し、それが命取りとなります。
マーティン・ギティエレス: コスタリカのフィールド生物学者。前作から登場し、インジェン事件に関する事情を知る人物です。レヴィンの知人でもありますが、当局の緘口令により多くを語れません。
エリザベス・ジェルマン: サンフランシスコ動物園職員。マルコムの依頼で、海岸に漂着した謎の生物の組織を分析します。
エド・ジェイムズ: ドジスンが雇った探偵。レヴィンの監視にあたりますが、どこか抜けており、ドジスンに叱責されます。
ディエゴ: サイトB出身の現地ガイド。レヴィンを島の内部へ導きますが、恐竜に襲われます。

登場する恐竜

小説には様々な種類の恐竜が登場します。

ティラノサウルス
マイアサウラ
パキケファロサウルス
プロコンプソグナトゥス
アパトサウルス
ステゴサウルス
トリケラトプス
パラサウロロフス
ヴェロキラプトル
* カルノタウルス

その他、ヒプシロフォドン、オルニトレステス（死骸）、ムスサウルスなどが登場します。

脚注

（なし）

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