ロスマンフォールド

ロスマンフォールド (Rossmann Fold)

定義と概要

ロスマンフォールドは、タンパク質の三次構造において観察される、特定の立体的な配置を示す構造モチーフであり、特にヌクレオチドとの結合を担うドメインとして広く認識されています。この構造は、アデニンジヌクレオチドであるNAD(P)やFAD、あるいはATPなどのヌクレオチドを含む分子との結合に特化した機能領域として機能します。様々な酵素や調節タンパク質にこのモチーフが見出されることから、生物機能におけるヌクレオチドの普遍的な役割を反映した、進化的に重要かつ保存された構造単位と考えられています。

歴史的背景

この特徴的な構造モチーフは、構造生物学者であるマイケル・ロスマン（Michael Rossmann）によって初めてその存在が明らかにされました。彼は1970年、乳酸デヒドロゲナーゼという酵素の立体構造を解析している際に、特定のパターンが繰り返される構造部位に気づきました。当初、これはその酵素に固有の特徴と考えられていましたが、その後の研究により、ヌクレオチドと結合する他の多くのタンパク質にも同様の構造モチーフが頻繁に存在することが明らかになりました。この普遍的なヌクレオチド結合ドメイン構造の発見とその重要性の認識における彼の功績を称え、この構造パターンは「ロスマンフォールド」と命名されました。彼の発見は、タンパク質の機能が特定の構造モジュールと関連していることを理解する上で、重要な一歩となりました。

構造的特徴

ロスマンフォールドは、一般的に、複数の平行なβシートがαヘリックスによって連結されたβ-α-β構造を基本単位として構成されます。これらのβシートとαヘリックスが特定の順序で配置されることにより、ヌクレオチド分子が収容されるポケットや結合部位が形成されます。

アミノアシルtRNAシンテターゼ（aaRS）は、その構造的特徴に基づいて大きく二つのグループに分類されます。このうち、第一群（グループⅠ）に属するアミノアシルtRNAシンテターゼの構造モチーフにおいて、ロスマンフォールドは重要な役割を果たしています。グループⅠ aaRSの構造には、HIGH配列およびKMSKS配列として知られる特定の短いアミノ酸配列が含まれています。これらの配列を含む領域は、ロスマンフォールド構造を形成し、アミノアシル-アデニル酸中間体の形成に必要なATPなどのヌクレオチドとの結合部位として機能します。この特定の構造的な配置と配列の組み合わせが、ヌクレオチド認識と結合の特異性および効率を決定する上で極めて重要となります。

機能

ロスマンフォールドの主要な機能は、ATP、GTP、NAD+、NADP+、FADといったヌクレオチドあるいはヌクレオチド誘導体との結合です。これらのヌクレオチドは、細胞内でエネルギー通貨（ATPなど）として、あるいは酸化還元反応の補酵素（NAD(P), FADなど）として、またはシグナル伝達分子として、生命活動の様々な側面に深く関与しています。ロスマンフォールドを持つタンパク質は、これらのヌクレオチドを適切に結合させることで、それぞれの酵素活性や機能を発揮します。例えば、デヒドロゲナーゼ酵素においては、NAD+やNADP+が補酵素として結合し、酸化還元反応を触媒する上で不可欠な役割を担います。キナーゼにおいては、ATPを結合し、その高エネルギーリン酸結合を利用して基質をリン酸化します。このように、ロスマンフォールドは、細胞内の多様な生化学反応やシグナル伝達経路の根幹を支える、基盤的な機能ドメインと言えます。

進化

ロスマンフォールドが非常に多様なタンパク質ファミリーに見出されることは、分子進化の観点から極めて興味深い事実です。これは、この構造モチーフが生命の初期段階で確立され、機能的に非常に有用であったため、様々なタンパク質において独立に、あるいは遺伝子重複や組換えを通じて採用され、保存されてきたことを示唆しています。ロスマンフォールドは、ヌクレオチド結合という基本的かつ普遍的な機能モジュールとして、様々なタンパク質機能の進化的な多様化に寄与したと考えられています。その構造が高度に保存されていることは、ヌクレオチド結合機能が生命維持にとって極めて重要であり、その構造的な頑健性が進化的な変化に対して比較的安定であったことを物語っています。

結論

ロスマンフォールドは、ヌクレオチドとの結合を専門とする、遍在的で進化的に保存されたタンパク質構造ドメインです。その発見は、タンパク質の機能が特定の構造モチーフと密接に関連していることの理解を深めました。エネルギー代謝、酸化還元反応、シグナル伝達など、生命の根幹に関わる多くのプロセスにおいて、ロスマンフォールドはその特有の構造を介してヌクレオチドを結合し、不可欠な役割を果たしています。アミノアシルtRNAシンテターゼのような具体的な例に見られるように、特定の分子配列を含むロスマンフォールド領域は、それぞれのタンパク質が担う精密な生化学的機能を実現するための基盤を提供しています。

参考文献

• - （具体的な文献情報は入力にありません）

外部リンク

• - Rossmann foldsのProteopediaページ

• ---

この文章は、提供された入力情報を基に辞書的な記述として再構成、加筆したものです。構造の詳細な化学的説明や、全てのロスマンフォールド含有タンパク質の網羅的なリストなど、入力にない情報は含んでいません。

もう一度検索