ロッテルダムのエラスムスの肖像

『ロッテルダムのエラスムスの肖像』

『ロッテルダムのエラスムスの肖像』（原題：Bildnis des Erasmus von Rotterdam、英題：Portrait of Erasmus of Rotterdam）は、ドイツ・ルネサンスの画家であるハンス・ホルバインによって制作された著名な絵画です。この作品は、エラスムスという人文学者の肖像を描いたもので、彼の多くの肖像がその後、複製されて広く流通しました。

制作背景

ホルバインは、エラスムスとの関係を深めながら彼を描く機会を得ました。エラスムスは1466年頃から1536年まで生きた有名な人文主義者であり、多くの著名な学者や庇護者との交流を持っていました。彼自身は絵画を愛したわけではありませんが、肖像画の重要性を理解していたため、多くの複製が必要とされました。ホルバインの肖像はその中で特に評価され、彼の技術はエラスムスの名声をも高める一因となったのです。

バリエーションと技法

エラスムスの肖像画には、主に3つのスタイルがあります。1つ目は、4分3の正面向きで描かれたもので、ロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。2つ目は、1528年に描かれた横顔の肖像画で、ルーヴル美術館にある代表作です。最後は、1530年ごろの古い形式のもので、バーゼル市立美術館に展示されています。これらはすべて、エラスムスの特徴を捉えた作品ですが、服装や背景が異なり、ホルバインのスタイルの多様性を示しています。

ホルバインは、モデルであるエラスムスの詳細な素描を数多く残し、肖像画を描く際には通常、直接の対面なしで行っていました。これにより、彼の作品は生き生きとしており、観る者に深い印象を与えます。さらに、ホルバインは時には古代の神々を題材にした作品も手がけており、エラスムスを象徴する小さな肖像がクリーヴランド美術館に所蔵されています。

各ヴァージョンの特徴

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの作品

このバージョンは、1523年に制作されたもので、ホルバインの技術的な精緻さが際立っています。エラスムスが書物を持ちながら描写されており、知識人としての威厳が表現されています。この作品は、彼が送り出した推薦状に記載された語句「ホルバインは、模倣するよりも中傷するほうがたやすい」と共に展示され、エラスムスの意志が込められています。

ルーヴル美術館の作品

こちらのバージョンは、エラスムスが57歳の際に制作されたもので、彼が『マルコによる福音書の論評』を書く場面を描いています。黒い上着に学者の帽子を被りながら、彼は原稿を見下ろしています。その背景には美しい装飾が施され、観る者に対して親密感を与えています。友人であるトーマス・モアへの贈り物として依頼されたとも伝えられています。

結論

『ロッテルダムのエラスムスの肖像』は、ハンス・ホルバインの卓越した技術とエラスムスの人間的魅力を結びつけた作品として、ルネサンス絵画での位置を確立しています。エラスムスの肖像は、後世においても多くの人々に愛され、学問を重視する姿勢を象徴するものとして語り継がれています。

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