ロッテ新宿工場

ロッテ新宿工場

ロッテ新宿工場は、東京都新宿区百人町に所在した、菓子メーカーであるロッテ株式会社の歴史的な生産拠点です。同社にとっての創業の地であり、かつては本社機能もここに置かれていました。この工場は、単に製品を製造する場としてだけでなく、地域の発展、特に新大久保エリアが日本有数のコリアタウンへと変貌を遂げる上で極めて重要な役割を果たしました。

概要と立地

工場は新大久保駅から大久保通りを挟んだ北側、現在のコリアタウンに隣接するエリアに位置していました。敷地は南北に細長く、JR山手線と西武新宿線の線路に沿うような形状をしており、北側には新宿区立戸山小学校や海城中学校・高等学校が隣接していました。その特徴的な立地から、工場の屋上には線路側に向けて「チューインガム LOTTE チョコレート」と記された大きな看板が設置されており、運行する電車内からもよく見える、地域のランドマークの一つとなっていました。主な製造品目はチューイングガムでした。2000年代に入るまで、周辺ではガムの香料の匂いが漂っていたといわれ、その生産活動が身近に感じられる場所でもありました。

この工場は、新宿区立小学校の社会科見学における定番の見学先としても親しまれていました。また、プロ野球チームであるロッテオリオンズ（現在の千葉ロッテマリーンズ）の選手の年俸更改の交渉場所として使用された時期もあり、製造業の枠を超えた多様な側面を持っていました。

歴史と閉鎖

ロッテ新宿工場は、1950年3月にチューイングガム工場として操業を開始し、これがロッテの歴史の幕開けとなりました。以来、長きにわたり首都圏における主要な生産拠点として稼働しましたが、生産体制の効率化と集約を目指す再編計画に伴い、段階的な設備移管が進められました。2011年からは生産ラインが狭山工場へと順次移され、2013年3月をもって製品の生産が完全に終了しました。そして同年7月、工場はその歴史に幕を閉じ、閉鎖されました。

工場閉鎖後、その広大な跡地の利用方法はしばらく未定の状態が続きました。2014年時点ではまだ工場の建物が残されている状況でしたが、2017年1月から本格的な解体工事が始まり、同年8月には全ての建物の解体が完了しました。跡地には新たな開発が進められ、2019年1月12日には住宅展示場である「ハウジングステージ新宿」が開設され、現在に至ります。

地域社会への影響：新大久保コリアタウンの形成

ロッテ新宿工場が地域社会に与えた最も顕著な影響は、現在の新大久保が日本を代表するコリアタウンへと発展する上で、その決定的な契機となった点です。1950年代にこの地に工場が設立されたこと自体が、地域の将来を大きく方向づける出来事でした。ロッテの創業者である重光武雄氏（辛格浩）は、この工場を通じて雇用を生み出し、それが多くの在日韓国人が新大久保周辺に移り住むきっかけの一つとなりました。辛会長の大胆な事業展開と、それに伴う地域の活気増大の噂は広がり、日本各地から人々が集まる流れを生み出しました。結果として、韓国系の企業や商店がこのエリアに集積するようになり、次第に一大コミュニティが形成されていきました。1980年代から1990年代にかけて、重光氏は国際的な富豪ランキングに名を連ねるほどの成功を収めましたが、その経済的な影響力もまた、新大久保がコリアタウンとして発展していく過程に寄与した側面があると考えられています。工場設立から始まったこの動きは、その後の数十年間を経て、東京の中心部に位置する新大久保を、国内外に知られる独特の文化を持つコリアタウンとして確立させました。この傾向は2020年代に入っても衰えることなく続き、新大久保は名実ともに多様な魅力を持つ地域として確固たる地位を築いています。ロッテ新宿工場は、その操業期間を通じて、地域経済に貢献するとともに、現在の新大久保を形作る上で不可欠な起点となったのです。

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