ロドニー・ミューレン

ロドニー・ミューレン：スケートボード革命のパイオニア

ジョン・ロドニー・ミューレン（1966年8月17日生まれ）は、アメリカ合衆国フロリダ州出身の著名なスケートボーダーです。多くのプロスケーターから「スケートボードの歴史において最も影響力のある人物」と評されており、ステイシー・ペラルタ、トニー・ホーク、ダニー・ウェイ、マーク・ゴンザレスといったレジェンドたちと共に、その名を刻んでいます。彼は後にスタンダードとなる数々の革新的なトリックを考案し、30年以上にわたるキャリアを経た現在も、新作ビデオを発表するたびに難易度の高いトリックでファンを驚かせています。特にフリースタイルスケートの世界では、その実力、実績、人気すべてにおいて群を抜いた、まさに不世出の天才と称されています。さらに、スケートボードのデッキやトラックといった用具の形状、サイズ、材質の改良にも多大な貢献を果たしました。

少年期とプロへの道

ロドニーのスケートボードへの情熱は幼少期からでしたが、厳格な父親は当初これを認めませんでした。1976年、10歳の時に「一度でも怪我をしたら辞める」という条件付きで初めてスケートボードを手に入れます。このため、少年時代の映像にはプロテクターを全身に装着した彼の姿が見られます。一度、ヴァートランプで転倒して前歯を2本折る重傷を負いますが、幸いにもヴァートセッションを禁じられるだけで済みました（ちなみに父親は歯科医でした）。

スケートボードを始めてわずか1年足らずで、地元のフリースタイル大会で3位に入賞。この活躍がウォーカースケートボードの目に留まり、1977年にはわずか11歳でプロの仲間入りを果たしました。

その後、フロリダ州内の農場地帯へ引っ越した彼は、自宅のガレージでフラットランド（平地）でのテクニックを徹底的に磨く日々を送ります。ロドニー自身、「13歳から14歳にかけてのこの時期が、最も創造性に満ちていた」と振り返っています。フリースタイル大会で次々と優勝を重ね、14歳で当時の世界チャンピオンであったスティーブ・ロッコを打ち破ったことで、ドリームチームとして知られるボーンズ・ブリゲイドに迎え入れられることとなりました。

フリースタイルの絶対王者からストリートへ

10代後半から20代前半にかけて、ロドニーは出場した35大会中、34大会で優勝するという圧倒的な強さを誇りました。同じチームのパー・ウェリンダーに一度だけ敗れたのみで、観衆の前で次々と新しいトリックを披露し、フリースタイルシーンを席巻しました。1989年にはボーンズ・ブリゲイドを離れ、ロッコが新たに設立したワールド・インダストリーズに移籍します。

1990年頃、フリースタイルスケートの人気が衰退していく中で、彼はストリートスケートへと活動の場を移し始めます。1991年、マイク・タナスキーが立ち上げたPlan Bに加入。タナスキーはワールド・インダストリーズでマーケティングを担当しており、ステイシー・ペラルタやスティーブ・ロッコの指導でも成し得なかったロドニーのストリートスタイルへの適応を積極的にサポートしました。その結果、ロドニーはフリースタイルで培ったテクニックとストリートの要素を融合させた、全く新しい境地ともいえるスケーティングを生み出します。オーソドックスなストリートトリックに独自の解釈を加え、トリプルキックフリップやキックフリップ・アンダーフリップ、キャスパースライドといった極めて高度なトリックを披露し、ストリートスケートにおけるテクニカルな方向性を明確に示しました。彼の代名詞の一つである、デッキを裏返して滑る「ダークスライド」もこの時期に誕生しています。

その後のキャリアと現在

1993年、恩師と慕っていたタナスキーが交通事故で急逝。大きなショックを受けながらも、ロドニーはやがて自らのチームA-teamを立ち上げ、Plan Bおよびワールド・インダストリーズを離れます。Plan Bは当時のチームメンバーだったコリン・マッケイとダニー・ウェイに譲渡され、後に一度消滅しますが2005年に復活しました。Plan Bにはマイク・キャロルやリック・ハワードなど多くの実力派スケーターが所属していましたが、彼らもGirlなどを立ち上げ独立していきました。A-teamは数年で解散しますが、この時期の多くのメンバーとは後に高い評価を得たビデオ作品「Globe - Opinion」で再び共演しています。また、デーウォン・ソンとの3本の「vs.」シリーズも人気を博しました。特に1990年代後半以降のビデオ作品では、長年培ってきたテクニックの集大成ともいえる、驚異的なスケーティングを見ることができます。

2000年にはA-teamのメンバーだったマーク・ジョンソンが立ち上げたEnjoiに参加しますが、短期間で離脱しています。

現在、ロドニーはオールモストに所属し、同年代のプロスケーターの多くが怪我や体力の衰えで第一線から退く中でも、スケート技術の探求を続けています。これは、フラットランドを中心としたスタイルが、後遺症を残すような大きな怪我につながりにくかったことが一因と考えられます（ダニー・ウェイのように重傷を負ったスケーターは、海外で特殊な手術を受けることもあります）。また、デッキやトラックの製造技術の開発やデザインにも深く関わっており、非常に早い時期から現在のストリートスタイルに近い形状のデッキを率先して使用するなど、用具開発にも積極的でした。フリースタイルには不向きとされる形状でも、彼のスケーティングからはその影響は微塵も感じられません。

近年、フリースタイルスケートの人気が緩やかに再燃しており、彼の功績や技術が改めて評価されています。Skateboard Directoryのトップページからトニー・ホーク、エリック・コストン、ジェフ・ローリーと共に目次がリンクされていることからも、その人気の高さがうかがえます。2002年にはTransWorld SKATEboarding MagazineのThe Reader's Choice Awardを受賞。同年にGlobeによるワールド・インダストリーズ買収の橋渡しも行いました。

2003年には自伝「ザ・マット」(The Mutt : HOW TO SKATEBOARD AND NOT KILL YOURSELF)を執筆しています。2007年には、長年使用してきたスタンスをレギュラーからグーフィーへと突然変更するという異例の挑戦をしました。怪我が理由とも噂されましたが、実際は本人の思いつきによるものと言われています。彼はフェイキーやスイッチスタンスの重要性を初期に定義づけた存在ですが、プロとして本格的にスタンスそのものを変更することは極めて稀です。常に新しい技術の習得に情熱を傾ける彼らしいエピソードと言えるでしょう。

代表的な考案トリックと出演作品

ロドニー・ミューレンは、無数の新しいトリックをスケートボードの世界にもたらしました。彼の革新性は、トリックそのものだけでなく、用具やスタンスに対するアプローチにも現れています。

彼の歴史的なスケーティングを記録した代表的な出演作品には以下のようなものがあります。

Powell Peralta : The Bones Brigade Video Show (1984)
Powell Peralta : Future-Primitive (1985)
Powell Peralta : The Search for Animal Chin (1986)
Powell Peralta : Public Domain (1988)
World Industries: Rubbish Heap (1989) ─ ロドニーのフリースタイルデッキが折られ、ストリートデッキに持ち替えられる象徴的なシーンが含まれています。
Plan B : Questionable Video (1992)
Plan B : Virtual Reality (1993)
Plan B : Second Hand Smoke (1995)
Rodney Mullen vs. Daewon Song (1997)
Rodney Mullen vs. Daewon Song Round 2 (1999)
Globe : Opinion (2001)
Almost : Round Three (2004) ─ デーウォン・ソンとの共演3作目です。

これらの作品は、彼の進化とスケートボードシーンへの多大な影響を伝える貴重な記録となっています。

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