ロバート・メイナード

17世紀末にイングランドで生を受け、後にイギリス海軍の士官となったロバート・メイナード。彼の初期のキャリアに関する詳細はあまり明らかになっていませんが、1707年に大尉に任官され、その後も海軍で活動していたことが記録に残されています。特に彼の名を歴史に刻んだのは、1718年に行われた悪名高き海賊「黒髭」ことエドワード・ティーチの討伐任務です。

1718年11月、当時のバージニア植民地総督アレクサンダー・スポッツウッドは、沿岸海域を荒らし回り、船舶を脅かしていた黒髭一味の掃討を決意しました。この重要な任務の指揮官に任命されたのがメイナードでした。彼は海軍の艦船から選抜された精鋭の乗組員を率い、2隻のスループ船（小型の帆船）に乗り込み、黒髭が潜伏しているとされるカロライナ植民地のオクラコーク入り江へと向かいました。

11月下旬、メイナードの部隊は入り江に停泊している黒髭の船を発見しました。海賊の大部分は陸地に上がっており、兵力ではメイナード側が3対1と圧倒的に有利な状況でした。しかし、メイナードの船は大砲を搭載しておらず、携行可能な小型火器に頼るしかありませんでした。一方、黒髭の船は8門もの大砲で重武装していました。さらに、メイナードは入り江の地形に不慣れであったため、即時攻撃を避け、夜明けまで攻撃を控え、入り江の地形を利用して艦を隠し、機会を伺う戦略を選択しました。

翌11月22日の早朝、メイナードは周到な準備のもと奇襲を敢行し、入り江へと突入しました。これに応戦した黒髭は、自身の地理的優位を利用し、巧みにメイナードの船を浅瀬へと誘い込みました。この戦術により、メイナードの旗艦「ジェーン号」は砂州に座礁し、一時的に身動きが取れなくなってしまいました。この隙を逃さず、黒髭は強力な舷側砲による激しい攻撃を浴びせ、メイナード側は多数の死傷者を出す壊滅的な損害を受けました。困難な状況下で、メイナードは船を軽くするなどの応急措置を講じ、辛うじて離礁に成功しました。

再び黒髭に接近したメイナードは、一計を案じました。大部分の部下を甲板下に隠し、黒髭に対し船上が無力であるかのように見せかけたのです。この巧妙な策略に騙された黒髭は、少数の手下を引き連れてメイナードの船に乗り込んできました。その瞬間、甲板下に潜んでいたメイナードの部下たちが一斉に姿を現し、壮絶な白兵戦が勃発しました。この大乱戦の中で、メイナード自身も黒髭と一対一で相対することとなりました。両者は互いに至近距離でピストルを撃ち合いましたが、弾は当たらず、その後は剣での戦いとなりました。黒髭は彼の恐ろしいカトラスでメイナードの剣をへし折り、彼を追い詰めましたが、多勢に無勢となった黒髭はメイナードの部下たちに取り囲まれました。首筋に致命傷を負った黒髭は、そのまま複数の攻撃を受け、ついに倒れ、壮絶な最期を遂げました。後に行われた遺体の検分では、5つ以上の銃創と20近い刀傷が確認されたといいます。

黒髭の討伐後、メイナードは海賊の船内や隠し場所から略奪品（砂糖、ココア、染料、綿など）を回収しました。これらは後に売却され、作戦費用に充てられました。また、討伐の証として黒髭の首は切断され、帰路の船のマストに吊るされた後、見せしめとしてバージニア州ハンプトンに晒されました。しかし、この輝かしい功績にもかかわらず、メイナードは期待したほどの正当な評価や報酬を得ることができませんでした。特に、戦闘に積極的に参加しなかった他の部隊が報酬を受け取る一方で、メイナード自身は功績に見合う昇進もなく、また略奪品の一部を不正に隠匿していた疑惑も浮上し、彼の立場をさらに不利にしました。結果として、彼はその後、目立った活躍の機会もなく、比較的無名のまま海軍でのキャリアを終えたとされています。

メイナードはその後、イングランドに戻り、ケント州で晩年を過ごしました。1739年に中佐、1740年に大佐に昇進しましたが、かつての輝きを取り戻すことはありませんでした。そして1751年1月4日、66歳でその生涯を閉じました。彼の功績は、当時の記録や後の歴史家によって語り継がれ、現代でも様々な形で記念されています。例えば、かつて彼の部隊が所属した船の名を継ぐ英国海軍の一部隊では、黒髭を打ち破った記念の夕食会が毎年開催されています。また、アメリカ合衆国バージニア州ハンプトン市では、毎年開催される黒髭祭りの中で、メイナードと黒髭の最後の戦いが海上にて再現されるなど、ロバート・メイナードの名は今もなお語り継がれ、歴史的な出来事として記憶されています。

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