ロビン・ハーツホーン

ロビン・ハーツホーン

ロビン・ハーツホーン氏（1938年3月15日生まれ）は、アメリカ合衆国を代表する数学者の一人です。特に、現代数学の重要な分野である代数幾何学の発展に大きく貢献し、その教育者としても世界的に知られています。彼の姓「Hartshorne」の正確な発音については、「ハートショーン」と聞こえることもありますが、氏自身は「ハーツホーン」と発音するのが正しいと認めています。

学問的背景と初期のキャリア

ハーツホーン氏は、代数幾何学の歴史に名を刻む偉大な数学者たちに師事しました。オスカー・ザリスキ、デヴィッド・マンフォード、ジャン＝ピエール・セール、そしてアレクサンドル・グロタンディークといった面々から直接指導を受けるという、極めて恵まれた環境で数学を学ぶことができました。これらの経験が、彼のその後の研究活動の基盤となりました。

早くからその才能を認められ、1958年秋には優れた学部生に与えられるPutnamフェロー（ジュニア・フェロー）に選出されています。その後、大学院での研究を経て、1963年にはハーバード大学で博士号を取得しました。彼の博士論文は、ジョン・コールマン・ムーア氏とオスカー・ザリスキ氏の共同指導のもと、「ヒルベルト・スキームの連結性」というテーマに関するものでした。博士号取得後も、彼はハーバード大学のフェロー（Harvard Society of Fellows）として数年間大学に留まり、若手研究者として精力的に活動しました。

カリフォルニア大学バークレー校時代

1970年代には、ハーツホーン氏はカリフォルニア大学バークレー校の教授に就任しました。バークレー校は、数学を含む様々な分野で世界のトップクラスに位置する研究機関であり、彼はここで多くの学生を指導し、代数幾何学の研究を進めました。長年にわたる貢献の後、現在は同大学を退職し、名誉教授としてその功績が称えられています。

主要な業績 - 代数幾何学教科書

ロビン・ハーツホーン氏の業績の中でも、特に広く知られているのは、彼の著作、特に代数幾何学に関する教科書です。1977年にSpringer-Verlagから出版された『Algebraic Geometry』は、この分野における事実上の標準的な参考書および入門書として、世界中の大学院生や研究者に愛用されています。邦訳もされており、日本でも多くの研究者や学生がこの本を通じて代数幾何学を学んでいます。

この教科書は、現代代数幾何学を理解するために不可欠なスキーム論から始まり、コホモロジー理論、代数曲線、代数曲面といった重要なトピックを網羅し、厳密かつ丁寧に解説しています。その網羅性と深さから、代数幾何学を専門とする上で必ず一度は手に取るべき書籍とされており、原著は幾度も改訂・増刷が重ねられています。彼の教科書は、多くの数学者に代数幾何学の難解な概念への道筋を示し、この分野の普及と発展に計り知れない貢献をしました。

その他の著作

『Algebraic Geometry』以外にも、ハーツホーン氏は代数幾何学および関連分野で重要な著作を多数発表しています。

Foundations of Projective Geometry (1967)
Ample Subvarieties of Algebraic Varieties (1970)
Families of Curves in P3 and Zeuthen's Problem (1997)
Geometry: Euclid and Beyond (2000, 幾何学：ユークリッド原論以降)
Local Cohomology: A Seminar Given by A. Grothendieck, Harvard University. Fall, 1961 (2006, グロタンディークの講義ノートの編纂)
Deformation Theory (2010)

特に、『Geometry: Euclid and Beyond』は、代数幾何学という高度な分野の専門家でありながら、数学の最も基礎的な部分であるユークリッド幾何学に新たな光を当てた著作であり、彼の数学に対する幅広い関心を示しています。これらの著作は、彼の研究者としての深さと広がりを物語っています。

数学以外の活動

厳密な数学の世界に身を置く一方で、ロビン・ハーツホーン氏には意外な一面があります。彼は日本の伝統楽器である尺八を演奏することを趣味としており、また絵画制作も行っており、自身のウェブサイトでその作品を公開しています。これらの活動は、彼の多才さと豊かな感性を示しており、数学者としての活動と並行して、人生を多角的に楽しんでいる様子がうかがえます。

ロビン・ハーツホーン氏は、その教育者、研究者としての長年のキャリアを通じて、特に代数幾何学の分野に不朽の足跡を残しました。彼の著した教科書は、今後も多くの世代の数学者にとって不可欠な指針であり続けるでしょう。バークレー校名誉教授として、現在も数学界とゆるやかに関わりながら、自身の豊かな趣味の世界も大切にしていることでしょう。

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