ロートパゴス族

ロートパゴス族（Λωτοφάγοι）

古代ギリシア神話に語り継がれる伝説上の民族に、ロートパゴス族が挙げられる。複数形ではロートパゴイと呼ばれ、この名は彼らの独特な食生活に由来する。「ロートパゴス」という言葉は、ギリシア語で「ロートスを食べる人々」という意味を持っている。彼らはロートスの木と呼ばれる特定の植物の果実（あるいは文献によっては花）を主食としており、この植物こそが彼らの存在を特徴づける重要な要素となっている。

ロートパゴス族は一般に平和的な気質を持つ人々として描かれる。彼らの土地は、叙事詩『オデュッセイア』において、トロイア戦争からの帰還を目指す英雄オデュッセウスが立ち寄った場所として最もよく知られている。

『オデュッセイア』によれば、トラーキア地方のイスマロスを出航したオデュッセウスの船団は、キティラ島付近で突如襲来した強い北風と高波によって予定の航路を大きく外れてしまう。幾日も漂流した末に、彼らはロートパゴス族が暮らす見知らぬ土地へと漂着した。安全を確認するため、オデュッセウスは信頼できる部下数名を選んで内陸部の探索に向かわせた。

偵察に向かった部下たちは、そこでロートパゴス族と出会う。ロートパゴス族は彼らを友好的に迎え入れ、彼らの主食であるロートスの果実を差し出した。興味本位や空腹からその果実を口にした部下たちは、たちまちその美味さに魅了されてしまう。しかし、このロートスには恐るべき魔力があった。一度これを食べてしまうと、故郷イタケーへの帰還の望みも、船長オデュッセウスから与えられた任務も、一切の記憶から消え失せてしまうのである。ロートスに心を奪われた部下たちは、もはや船に戻ることを拒み、ロートパゴス族の土地に永遠に留まることだけを強く願うようになった。

事態を察知したオデュッセウスは、急ぎ部下たちの救出に向かう。ロートスの魔力にとりつかれ、船に戻ろうとしない部下たちを、オデュッセウスは力ずくで抱え上げ、船まで引きずって連れ帰らなければならなかった。そして、他の乗組員たちが同じ過ちを犯すことのないよう、急いでその土地を離れる決断を下し、再び船出をした。

歴史家ヘーロドトスもまた、その著書『歴史』の中でロートパゴス族に言及している。彼によれば、ロートパゴス族は古代リビアの西部に居住していたという。ヘーロドトスは彼らが食べるロートスの実について、ナツメヤシのような甘く美味しい味がしたと記述している。さらに、彼らの近隣に住んでいたとされるマクリュエス族もまた、ロートスの実を食べていたことにも触れている。

ただし、ロートスに関して異説も存在する。ローマの著述家ヒュギーヌスは、彼らの著作『ギリシャ神話集』の中で、ロートパゴス族が食べていたのは果実ではなく、ロートスの花であったと伝えている。このように、ロートスの正確な形態や部位については、古代の記録の間で違いが見られる。

ロートパゴス族の物語は、快楽や忘却が故郷への思いや義務をいかに容易に失わせるかという、人間の心理的な脆さを示唆している。彼らは神話の中で、危険な誘惑を象徴する存在として描かれているのである。

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