ローナーポルシェ

ローナーポルシェ：電気自動車の歴史を塗り替えた革新技術

1821年創業の老舗馬車メーカー、ヤーコプ・ローナー社は、オーストリア王室御用達として豪華な馬車を製造していました。しかし、1896年、自動車製造への進出を決意します。当時、内燃機関は騒音が大きく扱いづらかったため、ローナー社は静かで洗練された自動車を目指し、電気自動車の開発に着手しました。

その開発を担ったのが、若き天才エンジニア、フェルディナント・ポルシェです。ローナー社は1898年にポルシェを迎え入れ、1899年秋、画期的な電気自動車の開発に着手しました。わずか10週間という短期間で完成した車両は、前輪ハブモーターを搭載した革新的な設計でした。

総重量980kgのうち、410kgをバッテリー、115kgをモーター付き前輪が占めていました。出力は2.5PS/120rpmと控えめでしたが、短時間であれば7PSまで出力が向上しました。最高速度は17km/hと37km/hの2段階に制御可能で、レース仕様では60km/hに達する性能を誇っていました。当時の世界記録が105.8km/hであったことを考えると、驚くべき速度です。

さらに、この車は当時の常識を覆す技術を採用していました。当時一般的だった後輪のみのブレーキに対し、ローナーポルシェは電気モーターによる前輪ブレーキも備え、実質的な4輪ブレーキを実現していました。また、トランスミッション、チェーン、デファレンシャルギアといった中間歯車装置を一切排除し、世界初のトランスミッションレスカーとなりました。

1900年のパリ万国博覧会に出展されたローナーポルシェは、多くの専門誌から高い評価を受けました。当時、著名メーカーが革新的な製品を発表しなかった中、「ヤーコプ・ローナー社のローナーポルシェ製電気自動車がもっともすぐれている」と絶賛されました。

ポルシェ自身もこの電気自動車をレーシングカーに改造し、30PS、90km/h近い速度を実現しています。その後、ポルシェは重いバッテリーの代わりにガソリンエンジンで発電機を駆動し、モーターを回すハイブリッドシステムの開発にも着手しました。この技術は後の軍用トラクターにも応用されています。

ローナーポルシェの革新的な技術は、現代の電気自動車開発にも大きな影響を与えました。その歴史的意義を改めて認識させるため、2011年には「Panamera S Hybrid」の資料・図面をもとに復元されたレプリカ「Semper Vivus」がジュネーブモーターショー、そしてポルシェ本社で展示されました。デモンストレーション走行も行われ、多くの人々を魅了しました。

ローナーポルシェは、単なる電気自動車の先駆けではなく、自動車史における重要なマイルストーンであり、フェルディナント・ポルシェの天才的な才能と、ローナー社の先見性を示す象徴的な存在と言えるでしょう。その技術革新は、現代の自動車技術にも脈々と受け継がれています。

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