ローレンス・コールバーグ

ローレンス・コールバーグと道徳性発達理論

ローレンス・コールバーグ(1927-1987)は、アメリカ合衆国の著名な心理学者であり、道徳性発達理論で知られています。彼の理論は、人間の道徳的判断の発達段階を詳細に分析したもので、教育や心理学、倫理学の分野に大きな影響を与えました。本稿では、コールバーグの生涯と、彼の業績である道徳性発達理論について解説します。

コールバーグの生涯

1927年、ニューヨーク州ブロンクスビルで生まれたコールバーグは、シカゴ大学で学び、1958年に哲学博士号を取得しました。在学中は、ジャン・ピアジェの認知発達理論に大きな影響を受けました。その後、エール大学、そして1968年にはハーバード大学教授に就任します。ハーバード大学では、後に道徳理論において議論を交わすことになるキャロル・ギリガンとも出会いました。1969年のイスラエル訪問は、彼の理論に「ジャスト・コミュニティ」という新たな概念を取り入れる契機となりました。しかし、1971年のベリーズでの仕事中に罹患した熱帯病や、長年にわたるうつ病の苦悩により、1987年に自ら命を絶つという悲劇的な最期を迎えました。

道徳性発達理論

コールバーグの道徳性発達理論は、人間の道徳的判断の発達段階を、大きく3つのレベルと6つの段階に分類したものです。各段階の特徴は以下の通りです。

1. 慣習以前のレベル

第一段階（罰と服従への志向）: この段階では、罰を回避し、権威に従うことが道徳的な行動の基準となります。行為の結果（罰または褒賞）が、その行為の善悪を決定します。
第二段階（道具主義的相対主義への志向）: 自分の欲求や利益、あるいは他者との利害調整を基に道徳的な判断を行います。公正さは、物理的な相互の有用性という観点から捉えられます。

2. 慣習的レベル

第三段階（対人的同調あるいは「よい子」への志向）: 他者から認められ、好かれることを重視した道徳的判断を行います。多数意見や社会的な期待に沿った行動を善い行動と認識します。
第四段階（「法と秩序」の維持への志向）: 社会のルールや法律を遵守することを重視します。秩序維持のために、規則や権威を尊重する行動が善い行動とされます。

3. 脱慣習的レベル

第五段階（社会契約的遵法への志向）: 社会のルールや法律は、変更可能な合意に基づいていると認識します。社会全体の福祉を考慮した上で、社会契約に基づいた行動を善い行動とします。
第六段階（普遍的な倫理的原理への志向）: 普遍的な倫理原理や良心に基づいて、道徳的な判断を行います。法律を超えた、より普遍的な倫理原則に従って行動します。

理論への批判と影響

コールバーグの理論は、道徳性発達研究に多大な影響を与えましたが、批判も存在します。特に、文化や性差を考慮していない点、そして理論の構成主義的側面への批判などがあります。例えば、キャロル・ギリガンは、コールバーグの理論が男性中心的な視点に偏っているとして、ケア倫理といった異なる視点を提示しました。

コールバーグの遺産

コールバーグの道徳性発達理論は、教育現場において道徳教育プログラムの開発や、個人の道徳的成長を理解するための重要な枠組みとして広く利用されています。「モラルジレンマ」と呼ばれる道徳教育実践は、その理論に基づいて展開されており、日本の教育現場でも見られます。しかし、学習内容や、他者との相互作用によって、道徳的判断の段階が変化することも示唆されています。

コールバーグの短い生涯は、多くの苦悩を伴いましたが、彼の残した道徳性発達理論は、現代社会においても倫理的な問題を考える上で重要な指針となっています。彼の業績は、これからも心理学や教育学の分野で研究され、議論されていくでしょう。

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