ワン・セカンド 永遠の24フレーム

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』は、中国の巨匠チャン・イーモウ監督が、文化大革命という激動の時代を背景に、一人の父親の切実な想いを描いた2020年の作品です。チャン・イーが父親役を、リウ・ハオツンが物語の鍵を握る少女役を演じています。

物語は、1969年の中国、文化大革命のさなかから始まります。労働改造所から脱走した男は、砂漠を越え、とある小さな町に辿り着きます。彼の目的は、映画館で上映されるニュース映像に、たった1秒だけ映る娘の姿を見ることでした。娘と最後に会ったのは6年前。彼は地元の権力者によって不当に収容され、家族と離れ離れになっていました。妻とは離婚し、娘とは一度も会えていません。ニュースで娘の姿を知った彼は、娘を一目見ようと脱走を決意したのです。

一方、町には、父親に捨てられ、母親を亡くし、幼い弟と二人で暮らす少女がいました。彼女は生活のために、映画フィルムを盗んで生計を立てていました。ある日、少女は映画フィルムを盗むのですが、それが男の娘が映るニュース映像だったのです。フィルムは男の手に戻りますが、男は少女に殴られ、フィルムを奪われてしまいます。しかし、翌日、少女を捕らえた男は、フィルムを映画館の館主ファンに届けます。

男と少女、それぞれがフィルムを必要とした背景には、深い事情がありました。少女は、弟のために借りた電気スタンドの笠が燃えてしまい、その代わりのフィルムが必要だったのです。当時、映画フィルムで照明の笠を作るのが流行していました。男は娘に会うために、少女は生活のために、それぞれが切実にフィルムを求めていたのです。男は少女の事情を知り、同情し始めます。

しかし、男が必死で探していたニュース映像は、フィルム缶からこぼれ落ち、砂で汚れてしまいます。映画館の館主ファンは、男の言葉に奮起し、町の人々を巻き込んでフィルムを修復しようとします。男もその作業に協力し、無事に映像は上映されることになります。そして、男は、上映後の無人の映画館で、ファンによって、たった一秒の娘の映像をエンドレスで見せてもらうことができました。

しかし、ファンの通報により、男は逮捕されることになります。連行される前に、男はファンに、劇場にあったフィルム製の笠を少女に譲るように頼みます。ファンは、男に娘の映ったフィルムを2コマだけ切り取って渡しますが、保安員はそれを砂漠に投げ捨ててしまいます。2年後、男は釈放され、姉弟の家を訪れます。男は少女がフィルムを拾ったと信じていましたが、拾ったのはフィルムの包み紙だけでした。それでも、孤独な男と孤児の姉弟は、新しい家族のようでした。

この映画は、厳しい時代の中で、人々の温かさや家族の絆を描いています。また、検閲による編集があったものの、チャン・イーモウ監督の力強い演出が光る作品です。特に、フィルムを修復するシーンや、男が娘の映像を見るシーンは、観る者の心を強く揺さぶります。映画は、文化大革命という歴史的な背景を映し出しながらも、普遍的な人間の感情を描き出すことに成功しています。出演者のチャン・イー、リウ・ハオツンらの演技も素晴らしいです。

この映画は、単なるドラマとしてだけでなく、社会的なメッセージも内包しています。検閲によってカットされた部分があることを知ると、映画に対する理解がさらに深まります。映画というものが、人の記憶や歴史を刻み、時にはそれを歪めてしまうことさえあるという、そんな重層的なテーマも感じられます。

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』は、過去の歴史を振り返り、人間の普遍的な感情を深く掘り下げた、見応えのある作品です。ぜひ、多くの方に見ていただきたい映画です。

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