ワン・ナイト・イン・バンコック

ワン・ナイト・イン・バンコック：魅惑のバンコクとチェスの知性

1984年発表のミュージカル『チェス』のコンセプトアルバムに収録された「ワン・ナイト・イン・バンコック」。ABBAのビョルン・ウルヴァースとベニー・アンダーソンが作曲、ティム・ライスが作詞を手掛けたこの楽曲は、マレー・ヘッドの歌唱で広く知られるようになりました。

そのキャッチーなメロディーとエキゾチックな雰囲気は、世界中で大ヒット。西ドイツ、スイス、オーストラリアなど複数の国で1位を獲得、カナダとアメリカでもトップ3入りを果たすなど、グローバルな人気を博しました。イギリスでも12位と高い順位を記録しています。

楽曲のジャンルは主にポップスに分類されますが、当時のダンスミュージックシーンでも注目を集めました。特徴的なのは、アンデシュ・グレンマルクによる多様なコーラスワーク。繰り返される「ワン・ナイト・イン・バンコック…」というフレーズが、楽曲全体に独特の雰囲気を与えています。

ヘッドによるラップパートは、バンコクの堕落した一面を皮肉を込めて表現。街のいかがわしい側面と、チェスの知的な潔癖性の対比が巧みに描かれています。歌詞の中には、「澱んだ古い川」や「横たわる仏像」といった、バンコクの具体的な情景が散りばめられ、聴く者の想像力を掻き立てます。映画『王様と私』のユル・ブリンナーへの言及も、興味深い要素となっています。

7インチシングルと12インチマキシシングルでは、本楽曲とロンドン交響楽団とアンブロジアン・シンガーズによる「メラーノ」が収録されました。制作には、アンデシュ・エルイアス、ベニー・アンダーソン、ミカエル・B・トレトウといった実力派ミュージシャン、プロデューサーが参加。彼らの高い技術と才能が、この楽曲のクオリティを高めています。

「ワン・ナイト・イン・バンコック」は、発表後も様々なアーティストによってカバーされ続けています。1984年にはロビーによるダンスミュージックバージョンが全米ダンスチャートで5位を記録。その後も、スティーヴ・ヴァイ、ヤン・ウェルナー・ダニエルセン、A*Teens、C21といったアーティストがそれぞれ独自の解釈でカバーし、楽曲に新たな魅力を与えています。2005年には、ヴァイナル・シェイカーズによるリミックスがヨーロッパで大きな話題となり、再び注目を集めるきっかけとなりました。このリミックスは、オリジナルのコーラスをサンプリングし、現代的なダンスミュージックにアレンジすることで、クラブシーンを席巻しました。DJアントワーヌも2008年のアルバムに収録するなど、現在もなおカバーは続いています。オーストリアのアカペラグループ、セイファー・シックスによるアカペラバージョンも存在します。

このように、「ワン・ナイト・イン・バンコック」は、その魅力的なメロディーと歌詞、そして時代を超えて愛され続ける普遍的なテーマによって、音楽史に刻まれた名曲と言えるでしょう。バンコクというエキゾチックな舞台設定、そしてチェスの世界観が融合したこの楽曲は、今後も多くのリスナーを魅了し続けることでしょう。

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