ワーグナー作品目録

ワーグナー作品目録（WWV）

リヒャルト・ワーグナー（Richard Wagner, 1813-1883）の膨大かつ多岐にわたる創作活動の成果を網羅し、体系的に整理するために編纂された標準的な作品目録が、「ワーグナー作品目録（Wagner-Werke-Verzeichnis）」です。ドイツ語の名称を略してWWVと呼ばれています。この重要な目録は、著名な音楽学者であるジョン・デスリッジ（John Deathridge）によって作成されました。

目録の必要性

ワーグナーは、自身の作品に対して一般的な作曲家が用いるような通し番号（作品番号、Opus number）を付与しませんでした。彼の作品は、特に成熟期のオペラ（楽劇）において、構想から完成までに長い年月を要し、複雑な成立過程や度重なる改訂を経ているものが多く、既存の作品番号システムに必ずしも馴染む形態ではなかったためと考えられます。このため、ワーグナーの特定の作品やその一部を正確に指し示し、学術研究や演奏の実践において混乱を避けるための、信頼できる包括的な目録の必要性が長く認識されていました。

目録の構成と役割

WWVは、リヒャルト・ワーグナーの生涯にわたる創作物に対し、1番から113番までのユニークな通し番号を付与しています。この番号は、ワーグナー作品を識別するための主要なコードとして機能し、作品番号が存在しない代わりに、あるいはそれ以上に重要な役割を果たしています。目録に含まれる対象は、完成された主要なオペラ作品や管弦楽曲、歌曲、合唱曲といった純粋な音楽作品に留まりません。

WWVには、ワーグナーの若い頃の習作、構想のみに終わった断片、未完成のまま放棄された作品、様々な機会のために書かれた小品なども含まれています。さらに特筆すべきは、彼の思想や理論を示す膨大な量の著作、すなわち文章作品の一部も目録の対象となっている点です。これにより、WWVは単なる音楽作品のリストではなく、ワーグナーのクリエイティブな世界全体を俯瞰するための包括的なガイドとしての性格も帯びています。

番号の順序は、厳密な作曲年代順とは限らない部分もありますが、おおむね創作時期を反映したものとなっており、ワーグナーの作品の発展を辿る上での手がかりとなります。

標準的な参照ツールとして

ジョン・デスリッジによって編纂されたWWVは、その網羅性と学術的な厳密さから、現在ではワーグナーに関するあらゆる分野で標準的な参照ツールとして広く受け入れられています。音楽学の研究論文、書籍、学術的な版の楽譜、演奏会プログラム、録音のライナーノーツなど、様々な場面でワーグナー作品を特定する際にWWV番号が用いられています。

例えば、同じ題名を持つ初期の作品と後期の作品を区別する際や、未完成のスケッチや断片作品を明確に指示する際に、WWV番号は不可欠な識別子となります。これは、ワーグナー作品に関する国際的なコミュニケーションにおいても共通認識の基盤を提供しています。

WWVの確立により、ワーグナー研究は大きく前進し、個々の作品だけでなく、彼の創作全体をより深く理解するための道が開かれました。WWVは、ワーグナーの複雑で多様な作品世界を探求する上での信頼できる羅針盤と言えるでしょう。

関連事項

WWV番号に基づいて整理されたワーグナーの楽曲一覧は、作品を概観する上で非常に有用な情報源となります。

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