ヴァイオリンソナタ第17番 (モーツァルト)

ヴァイオリンソナタ第17番 ハ長調 K. 296は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって1778年に作曲された、ヴァイオリンとピアノのためのソナタです。

作曲の背景

このソナタは、モーツァルトが母マリア・アンナとともにマンハイムからパリへ向かう旅行の途上、1778年3月11日にマンハイムで完成されました。当時、モーツァルト親子はマンハイムで宮廷顧問官を務めていたゼラリウス家の歓待を受け、その邸宅に滞在していました。ゼラリウス家が提供してくれた宿舎への感謝の気持ちを表すため、モーツァルトはこの作品をゼラリウス家の15歳になる娘、テレーゼ・ピエロン嬢に献呈しました。自筆譜の表紙には、献呈の事実を示す「テレーゼ嬢のために（Pour Mademoiselle Thérèse）」という献辞が記されています。

楽曲の特徴

作品全体を通じて、このソナタはのびやかで明るい表現と、生き生きとした躍動的な曲想が特徴的です。当時の多くのヴァイオリンソナタと同様に、楽器間の関係性としては、主にピアノパートが音楽の主軸を担い、ヴァイオリンがそれに寄り添う、あるいは装飾を加える形をとっています。しかしながら、特に第2楽章と終楽章である第3楽章では、ヴァイオリンにも重要な主題や旋律、技巧的なパッセージが与えられ、より対等に近い立場でピアノと絡み合います。また、この第2楽章と第3楽章には、モーツァルトが深く敬愛していた作曲家ヨハン・クリスティアン・バッハ（J.C.バッハ）の作品から影響を受けた、あるいは直接的に引用したとされる旋律が含まれていることが指摘されています。

楽曲構成

本作品は、以下の3つの楽章から構成されています。全曲を通した演奏時間は約16分程度です。

1. 第1楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ
ハ長調、4分の4拍子で書かれたソナタ形式の楽章です。「アレグロ・ヴィヴァーチェ」という速度・表情指示の通り、非常に快活で生命力に満ちた音楽が展開されます。特徴的な主題が提示され、展開部を経て再現部に至る、古典的なソナタ形式に則っています。

2. 第2楽章：アンダンテ・ソステヌート
ヘ長調、4分の3拍子による三部形式（A-B-A構造）の緩徐楽章です。「アンダンテ・ソステヌート」は、ややゆっくりとしたテンポで、音を十分に保って（ sostenuto ）演奏することを求めています。情感豊かで美しい旋律が歌われ、穏やかながらも深みのある音楽が展開されます。この楽章には、前述の通りJ.C.バッハからの影響が窺える旋律が見られます。

3. 第3楽章：ロンドー：アレグロ
ハ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）で書かれたロンド形式の終楽章です。冒頭に提示される覚えやすいロンド主題が、様々なエピソードを挟みながら繰り返されます。「アレグロ」のテンポで活気に満ちており、時にスケールの大きな展開を見せながら、華やかにソナタを締めくくります。この楽章にも、J.C.バッハからの旋律の引用が指摘されています。

ヴァイオリンソナタ第17番 K. 296は、モーツァルトがマンハイム楽派から受けた影響と自身の創造性が融合した作品群の一つであり、以後の鍵盤楽器とヴァイオリンのための作品における重要な発展段階を示すものとして位置づけられています。個人的な献呈の背景と結びついた、モーツァルトの初期の成熟を示す魅力的な作品です。

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