ヴァルター・ネルンスト

ヴァルター・ヘルマン・ネルンスト：熱力学第三法則の父とその生涯

ヴァルター・ヘルマン・ネルンスト (1864年6月25日-1941年11月18日) は、20世紀における最も重要な物理化学者の1人です。熱力学第三法則の発見、ネルンストの式といった革新的な業績で知られ、その生涯は科学史に燦然と輝く足跡を残しています。

科学への道：初期の経歴と研究

ポーランド生まれのネルンストは、幼少期から優秀な成績で知られていました。当初は詩人を目指していましたが、化学教師との出会いをきっかけに科学の道へ進みます。チューリッヒ、ベルリン、グラーツといった名門大学で研鑽を積んだ後、ヴュルツブルク大学で学位を取得。グラーツ大学ではルートヴィッヒ・ボルツマンの下で研究を行い、アルベルト・フォン・エッティングスハウゼンと共にエッティングスハウゼン-ネルンスト効果を発見しました。ヴュルツブルク時代には、フリードリッヒ・コールラウシュやスヴァンテ・アレニウスらとも共同研究を行いました。これらの経験が、後の彼の偉大な業績の基礎を築きました。

ライプチヒ、ゲッティンゲン時代：才能開花と成功

ヴィルヘルム・オストヴァルトに招かれ、ライプツィヒ大学に移ったネルンストはガルヴァーニ電池の研究に没頭しました。その才能はすぐに認められ、講師に昇進。その後、ゲッティンゲン大学に移り、物理化学の助教授として活躍しました。この時代には、電燈に使用できる新しい固体電解質を発見し、特許権を売却したことで得た資金を研究室の拡張に充てました。彼の研究室は、国内外から多くの学生が集まる活気ある場所となり、ネルンスト夫妻は研究室の仲間たちとの交流を積極的に行いました。

ベルリン時代：熱力学第三法則の発見と国際的な活躍

1905年、ネルンストはベルリン大学教授に就任。この頃、熱力学に関する着想を得て、後に熱力学第三法則と呼ばれることになる重要な法則を発見しました。この法則は、絶対零度においてエントロピーが一定値をとるというもので、熱力学における基礎的な法則の1つとなりました。ネルンストは、この法則を確立するために長年実験を続けました。

彼は、比熱の問題にも関心を持ち、アインシュタインの理論と実験結果の一致を認め、アインシュタインをベルリンに招くことに貢献しました。また、エルネスト・ソルベーと共にソルベー会議を開催するなど、国際的な科学界においても大きな影響力を持つようになりました。

戦争と戦後：苦悩と栄誉

第一次世界大戦では、ネルンスト自身も軍隊に入隊し、化学兵器の研究開発に携わりました。しかし戦争の悲惨さを目の当たりにし、戦争終結後は戦争犯罪人として告発される危険から一時的に国外に逃れました。しかし、その後は、熱力学第三法則の功績によりノーベル化学賞を受賞するなど、その業績は高く評価され、様々な栄誉を受けました。

晩年：家族との時間とナチス政権下の苦悩

1933年に引退したネルンストは、家族との時間を大切に過ごしました。しかし、ナチス政権下のユダヤ人迫害により、ユダヤ人と結婚した娘たちは国外に逃亡を余儀なくされました。ネルンスト自身はナチスを嫌悪していましたが、家族の離散は彼にとって大きな苦痛でした。1941年、妻に見守られながら静かに息を引き取りました。

ネルンストの業績：熱力学と電気化学への貢献

ネルンストの最大の功績は、熱力学第三法則の確立です。彼は、ギブズ-ヘルムホルツの式の問題点を解決するために、絶対零度近傍における化学親和力に関する仮説を提唱しました。この仮説は、後に実験的に裏付けられ、熱力学の基本法則の1つとして確立されました。

さらに、電気化学の分野でも、エッティングスハウゼン-ネルンスト効果の発見やネルンストの式の発表など、重要な業績を残しています。また、実験器具の改良にも貢献しました。

人物像：せっかちな天才

ネルンストは、せっかちで短気な面も持ち合わせていましたが、研究者としては情熱的で、学生たちからは敬愛されていました。アインシュタインは、ネルンストを「子供のように有頂天になる」人物と評しています。初期の自動車好きとしても知られ、生涯に18台の車を購入しました。

ヴァルター・ヘルマン・ネルンストは、科学への情熱と鋭い洞察力、そして独自の個性で、物理化学の発展に大きく貢献した偉大な科学者でした。彼の功績は、現代科学においてもなお重要な意味を持ち続けています。

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