ヴァージル・フォックス

ヴァージル・フォックスは、20世紀のアメリカが生んだ傑出したオルガニストの一人です。1912年5月3日、イリノイ州プリンストンに生を受け、その生涯をオルガン音楽の演奏と普及に捧げました。

幼い頃から非凡な才能を示したフォックスは、ボルティモアにあるピーポディー音楽院でルイス・ロバートに師事し、専門的な教育を受けました。1926年にはシンシナティで初めて公式の舞台に立ち、オルガニストとしてのキャリアを開始します。その後、1928年から1929年にかけては、シカゴでドイツ出身の著名なオルガニスト、ヴィルヘルム・ミッデルシュルテから指導を受け、その技量をさらに磨きました。

国際的な活動も早期から展開しました。1931年には、イギリスのロンドンにあるキングスウェイ・ホールと、アメリカ音楽界の殿堂であるニューヨークのカーネギー・ホールで相次いで演奏を披露し、その名を広く知らしめます。翌1932年からは1年間、パリに留学し、近代オルガン楽派の巨匠マルセル・デュプレのもとで学びました。このパリでの経験は、彼の音楽観や演奏スタイルに大きな影響を与えたと考えられています。

帰国後、教育者としても手腕を発揮します。1938年から1942年まで、かつて自身が学んだピーポディー音楽院のオルガン科主任教授を務め、後進の指導にあたりました。また、ニューヨークの主要な教会のオルガニストとしても長期間活動しました。特に1946年から1962年までの16年間は、著名なリヴァーサイド教会のオルガニストを務め、その荘厳な響きを持つパイプオルガンを駆使した演奏で多くの人々を魅了しました。

第二次世界大戦中は、愛国心から積極的に慰問演奏を行い、国内外の兵士や市民を勇気づけました。この期間に行ったコンサートは、記録に残るだけでも600回にも上り、その精力的な活動は特筆に値します。

教会オルガニストを退任した後も、その活動は衰えることを知りませんでした。1962年には、同時代の著名なオルガニストであるキャサリン・クロージャやエドワード・パワー・ビッグスらと共に、ニューヨークに新設されたリンカーン・センター内のフィルハーモニック・ホール（現デイヴィッド・ゲフィン・ホール）にオルガンを設置するための運動に尽力しました。

特に1971年以降は、それまでのクラシック音楽の枠を超えた革新的なアプローチを展開しました。コンサートホールだけでなく、ロック・フェスティバルなど多様な場所で演奏を行い、アレン・シュワルツェンバーグが開発した大規模な電子オルガン「アリアンツ・オーウェン・フォックス・ツアー・オルガン」（AIOFOX）を駆使しました。バッハなどの古典作品を、時に派手な照明演出と組み合わせながら演奏し、従来のオルガン音楽になじみのない聴衆層に対しても、その魅力を積極的に啓蒙しました。この「ヘビー・オーガン・コンサート」と呼ばれるスタイルは賛否両論を巻き起こしましたが、オルガン音楽の可能性を広げた功績は大きいと言えます。

ヴァージル・フォックスは、生涯を通じて常に新しい表現を追求し続けたオルガニストでした。彼の演奏は、技巧的かつ情熱的であり、多くの人々に感銘を与えました。1980年10月25日、フロリダ州ウェストパームビーチでその波乱に満ちた生涯を閉じました。彼の遺した功績は、今なお多くのオルガニストや音楽愛好家に記憶されています。

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