ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ（Violoncello da spalla）は、主に18世紀に用いられた、一般的なチェロよりも比較的小型の弦楽器です。そのイタリア語の名称は文字通り「肩のチェロ」を意味しており、楽器をストラップで肩にかけて演奏する独特なスタイルが最大の特徴です。この楽器は、ヴィオラ・ダ・スパッラと呼ばれることもありました。

標準的なチェロが床に立てて演奏されるのに対し、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは演奏者の体に対して垂直に近い形で、肩や胸に固定して構えられます。これにより、立奏や、オペラ上演中などに動きながら演奏することも可能であったと考えられています。楽器自体のサイズは、通常のチェロより小さく、ヴィオラとチェロの中間程度の大きさですが、音域としてはチェロと同等か、わずかに高い音域までカバーするものがあったと推測されています。そのサイズ感と演奏スタイルから、技術的な難易度は通常のチェロとは異なると言われます。

ただし、この楽器の正確な定義や、当時の演奏習慣に関する資料には、いくつかの異説や曖昧な点も見られます。例えば、1732年に出版されたヨハン・フリードリヒ・ベルンハルト・カスパール・マイヤーの音楽論には、Violoncello, Bassa Viola, Viola di Spalaといった小型のバス楽器について解説があります。この中で、Viola di Spalaはストラップを用いて胸や右肩に保持される場合と、より一般的には脚の間に挟んで演奏される場合があると記されています。この記述からは、Viola di Spalaがヴィオロンチェロ・ダ・スパッラと同じ楽器を指すこともあれば、単に小型のチェロや特定の構え方を指す言葉として、あるいはチェロそのものの同義語として用いられていた可能性も指摘されており、名称と実態の関連性には歴史的な複雑さがあります。

また、後世の音楽史において、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラに関連して語られるのが「ヴィオラ・ポンポーザ」という楽器です。18世紀後半の文献において、E.L.ゲルベルなどの音楽史家が、ヨハン・ゼバスティアン・バッハがヴィオラとチェロの中間的な音域を持つこのヴィオラ・ポンポーザを発明したと伝えました。このヴィオラ・ポンポーザが、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラと同一、あるいは非常に近縁の楽器を指しているのではないかという説があります。バッハのカンタータにおけるチェロのオブリガートパートや、有名な無伴奏チェロ組曲などが、実はヴィオロンチェロ・ダ・スパッラのために書かれた、あるいはこの楽器での演奏が想定されていたのではないかという推測も存在しますが、バッハ自身がヴィオラ・ポンポーザを発明したという直接的な証拠は発見されておらず、その関連性については現在も学術的な議論の対象となっています。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは18世紀中に楽器の標準化や音楽様式の変化に伴い、次第に演奏されなくなっていきました。しかし、近年、バロック音楽を中心とする古楽復興運動の高まりの中で再評価が進んでいます。歴史的な資料や現存する楽器の痕跡を基に、現代の職人によって楽器が復元され、当時の音色や演奏方法を追求する演奏家によって演奏・録音が行われるようになっています。この楽器の復活は、バッハをはじめとする18世紀の作曲家たちが意図した響きを再発見する試みであり、当時の音楽作品に対する新たな解釈や演奏スタイルの可能性を広げています。

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