ヴィクトル・ヴェクセリベルク

ヴィクトル・フェリクソヴィチ・ヴェクセリベルクは、1957年4月14日にウクライナのリヴィウ近郊で生まれました。ユダヤ系のルーツを持ち、幼少期をドロホーブィチで過ごしました。1979年にはモスクワ鉄道輸送技術者大学（MIIT）を優等で卒業し、自動化とコンピューター技術の専門知識を身につけました。

卒業後、1978年から1990年まで海軍特別設計局の研究所KONNASに勤務し、ロッドレスポンプの設計に携わります。その後、技術者から調査官へとキャリアチェンジし、1988年にはNPO KomVek社を設立。イルクーツクのアルミ工場と連携し、調査と生産活動を行いました。さらに1990年には調査会社KAMを設立し、社長に就任。この頃から、アルミ関連株の売買で利益を上げ、その後の成功への足がかりを築きました。

1997年、ヴェクセリベルクはテューメン・オイル（TNK）の事業を掌握し、会長に就任。その後、BPとの合弁事業を開始するなど、石油・ガス業界での影響力を拡大しました。さらに、ロシア第2のアルミ会社であるSUALホールディングの会長も兼任し、その経営手腕を発揮しました。これらの事業を通じて、彼はロシアを代表する大富豪の一人となりました。

ヴェクセリベルクは、美術品の収集家としても知られています。特に有名なのは、2004年にニューヨークのフォーブス家から購入した「ファベルジェの卵」です。ロマノフ家ゆかりのこのイースターエッグは、黄金と宝石がちりばめられた美術品で、1個あたり約8億円の価値があるとされています。しかし、購入した一部の卵には贋作説も浮上し、議論を呼びました。彼は、この説に強く反論しています。

美術への情熱は、私設美術館の設立にも繋がりました。2006年4月にはサンクトペテルブルクに美術館を開館し、2007年にはモスクワにも開館を予定していました。彼の美術館では、自身が収集した美術品が展示され、多くの人々がそのコレクションを鑑賞しています。

政治の世界では、ヴェクセリベルクはプーチン大統領によってカムチャツカ州知事に任命される可能性も取り沙汰されました。しかし、実際にはその実現には至りませんでした。経済面では、2018年にアメリカ合衆国がロシア政府関係者に対して行った経済制裁の対象となり、大きな打撃を受けました。彼はロシア政府への影響力を否定しましたが、経済活動は大幅に制約されることになりました。

制裁の影響は個人口座の閉鎖にまで及びました。スイスの金融機関ポストファイナンスは、ヴェクセリベルクの個人口座を閉鎖しましたが、彼はこれを不服として提訴。2022年3月に勝訴したものの、その直前にロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、日本や欧州各国も彼に対する経済制裁を強化する事態となりました。2022年4月4日には、アメリカとスペイン当局が連携し、マヨルカ島に係留されていたスーパーヨットを差し押さえました。

ヴェクセリベルクは、マリーナ夫人との間に一男一女をもうけています。また、ロシアの詩人ボリス・パステルナークの詩を愛読する一面も持っています。彼の人生は、ビジネスにおける成功と、政治的、経済的な波乱に満ちたものであり、現代ロシアを代表する人物の一人として注目されています。

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