ヴェンゲルンアルプ鉄道

ヴェンゲルンアルプ鉄道

スイスの中央に位置するベルン州、特にユングフラウ地方の壮大なアルプスの景観の中を駆け抜けるヴェンゲルンアルプ鉄道（独: Wengernalpbahn、略称: WAB）は、この地域を訪れる旅行者にとって欠かせない交通手段の一つです。ラウターブルンネンとグリンデルワルトという二つの主要な観光拠点から、アルプスの名峰を望むクライネ・シャイデックを結ぶこの山岳鉄道は、その歴史と特徴において特筆すべき存在です。

ユングフラウ鉄道持株会社の傘下にあるヴェンゲルンアルプ鉄道は、標高3,454メートルのユングフラウヨッホへ通じるユングフラウ鉄道などとともに、「ユングフラウ トップオブヨーロッパ」という統一ブランドのもとで運営されています。このブランドは、ユングフラウ地方全体の魅力を世界に発信する役割を担っています。

路線概要と特徴

ヴェンゲルンアルプ鉄道の全長は約19キロメートルに及び、800ミリメートルの狭軌を採用しています。急勾配を登るためにラック式鉄道として建設されており、その営業距離は登山鉄道としては世界で最も長いことで知られています。ラウターブルンネンからグリンデルワルトへと移動する場合、中間地点にあたるクライネ・シャイデックでの乗り換えが必要となります。

この鉄道の利用者の大部分は、クライネ・シャイデック駅でユングフラウ鉄道に乗り換えて、ヨーロッパ最高地点にある駅として有名なユングフラウヨッホを目指します。そのため、ヴェンゲルンアルプ鉄道はユングフラウヨッホ観光の重要なアクセスルートとしての役割を担っています。車窓からは、ヴェンゲン村やアイガー、メンヒ、ユングフラウといったベルナーアルプスの名峰群を間近に眺めることができ、息をのむような絶景が乗客を迎えます。

歴史

ヴェンゲルンアルプ鉄道の建設は1891年に開始されました。翌年の1892年4月には、最初の区間としてラウターブルンネンからヴェンゲンまでの間で蒸気機関車による運行が始まりました。同年8月にはさらに延伸され、クライネ・シャイデックまでが開通。そして1893年には、ラウターブルンネン、クライネ・シャイデックを経由してグリンデルワルトに至る全線が開業し、現在の路線網が完成しました。

運行と車両

ヴェンゲルンアルプ鉄道は年間を通して運行されており、季節を問わずユングフラウ地方へのアクセスを提供しています。特に夏季と冬季のハイシーズンには観光客が多いため、列車は30分から1時間の間隔で頻繁に運転されます。これにより、多くの旅行者が円滑に移動できるよう配慮されています。

これまでヴェンゲルンアルプ鉄道では、様々な形式の機関車や電車が活躍してきました。主な車両形式としては、建設当初から運行を支えた蒸気機関車（H2/3 1-8形、H2/3 9-14形、H2/3 31-32形）や、電化後に導入された電気機関車（He2/2 51-65形、He2/2 31-32形）があります。現在では、より近代的な電車（BDhe4/4 101-118形、BDhe4/4 119-124形、BDhe4/8 131-134形、Bhe4/8 141-144形など）が旅客輸送の中心を担っています。これらの車両は、急勾配を安全かつ快適に走行するための特殊な構造を備えています。

ユングフラウ地方の壮大な自然と歴史を感じながら、ヴェンゲルンアルプ鉄道での旅は忘れられない体験となるでしょう。この鉄道は、単なる移動手段ではなく、目的地へ向かう道のりそのものが重要な観光アトラクションとなっています。

（出典：スイス政府観光局、Jungfrau – Top of Europe関連情報より）

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