一二・三事件

一二・三事件：マカオを揺るがした1966年の大暴動

1966年12月3日、ポルトガル領マカオにおいて、マカオ史上最大規模の暴動が発生しました。この事件は「一二・三事件」として知られ、中国共産党と国民党の対立、文化大革命の影響、そしてポルトガル政府の対応など、複雑な要因が絡み合った歴史的事件です。本稿では、その詳細な経緯と背景、そして事件がマカオと周辺地域にもたらした影響について解説します。

冷戦下のマカオ：対立と緊張の高まり

当時、マカオはポルトガルの支配下におかれながらも、中国共産党支持者と国民党支持者の両方が居住していました。1950年代以降、両者の対立は徐々に激化。毎年10月、国慶節と双十節の祝祭日に伴い、双方の衝突が頻発していました。

1960年代半ば、中国本土では文化大革命が勃発。この過激な政治運動はマカオにも波及し、共産党支持者の反政府活動が活発化しました。彼らはポルトガル政府や国民党支持者に対して、暴力的な抗議行動をエスカレートさせていきます。

学校建設をめぐる争い：火種となる小競り合い

事件の発端は、タイパ島での中国共産党系小学校の増改築計画でした。建築規制違反を指摘され、許可が下りなかった学校側は、強行工事を実行。マカオ政府はこれを阻止しようと警察を派遣、小規模な衝突が発生しました。この事件が、後に大規模暴動へと発展する導火線となりました。

中国共産党の介入と抗議行動の激化

衝突を受け、共産党支持者らは政府に対し、工事許可、負傷者への賠償、逮捕者の釈放などを要求。しかし、政府は交渉に応じず、事態は悪化の一途を辿りました。中国共産党系の左翼団体が介入すると、抗議行動はますます過激さを増し、総督府前で連日大規模なデモが行われるようになりました。

暴動の勃発と鎮圧：流血の鎮圧劇

12月3日、総督府前でデモ隊と警察が衝突。警察の鎮圧にもかかわらず、デモ隊は暴徒化。裁判所や市役所庁舎などが襲撃され、警官隊が発砲し、死者が出ました。政府は戒厳令を発令、騒乱は鎮圧されましたが、8人の死者、212人の負傷者、62人の逮捕者という結果を残しました。

中国の軍事恫喝とポルトガルの屈服

事件を受け、中国側はマカオ政府とポルトガル政府に謝罪と責任者の処罰、賠償金支払いを要求。さらに、人民解放軍の軍事侵攻を示唆する軍事恫喝を行い、マカオ沖に艦船を派遣しました。

当時、ポルトガルは国力低下しており、中国との軍事衝突は避けたいと考えていました。そのため、ポルトガル政府は中国側の要求を全面的に受け入れました。総督代理と警察署長は罷免され、中国側に多額の賠償金が支払われました。

事件の影響：マカオの政治情勢変化

一二・三事件後、マカオは事実上中国の影響下に置かれました。親中派の実業家の影響力が強まり、マカオは中華民国との関係を断絶。中国共産党の弾圧を逃れてくる中国本土からの難民の入国も禁止されました。この事件は、香港の六七暴動にも影響を与えたとされています。

結論

一二・三事件は、冷戦下の国際情勢、中国国内の政治的混乱、そしてマカオにおける複雑な社会構造が絡み合って発生した歴史的事件です。この事件は、マカオの政治情勢を大きく変え、中国とポルトガルの関係、ひいては東アジアの国際情勢にも大きな影響を与えました。現代のマカオを考える上で、この事件は重要な歴史的背景となっています。

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