一草舎

一草舎（いっそうしゃ）

一草舎は、かつて長野県長野市に存在した出版社です。郷土史や地域の文化に根差した書籍を多く手掛け、「一草舎出版」と呼ばれることもありました。その事業の中心は、長野県に関する出版物の刊行であり、地域固有の題材を深く掘り下げる出版活動を展開しました。

沿革

一草舎は2004年（平成16年）2月に設立されました。創業者は高橋将人氏で、同氏はこれに先立つ1975年（昭和50年）に郷土出版社（長野県松本市）を創業した人物でもあります。郷土出版社の経営から一度身を引いた後、新たな出版への情熱から一草舎を立ち上げました。所在地は長野県長野市若里5-10-48に置かれていました。

創業者の高橋氏は、「信州以外の本は作らない」「会社維持だけのための本は作るまい」という強い信念を持っていました。この哲学に基づき、一草舎は長野県という地域に徹底的に焦点を当てた出版活動を進めます。具体的な出版内容としては、長野県にゆかりの深い童謡、地域の民話や伝承、そして郷土の歴史など、多岐にわたる分野の「信州の本」を刊行しました。

長野県という特定の地域に特化し、独自の企画による書籍を出版し続けていましたが、一草舎はその歴史に幕を下ろすことになります。2010年（平成22年）6月、同社は任意整理の手続きを経て解散しました。比較的に短い期間での事業終了となりましたが、その間に刊行された書籍は、長野県の文化や歴史を知る上で貴重な資料となっています。

会社解散後、2010年7月からは、京都市上京区にある宮帯出版社が、一草舎が刊行した書籍の発売元を引き継ぎました。これにより、一草舎の書籍は引き続き全国の書店を通じて入手可能な状態が続いています。

特徴と理念

一草舎の最大の特徴は、その徹底した地域密着型の出版方針にありました。創業者の揺るぎない信念のもと、「信州の本」のみを製作することにこだわり、長野県の文化、歴史、そして人々の暮らしに深く根差したテーマを選びました。採算性よりも、地域にとって本当に必要な本、残すべき本を作るという姿勢が、その出版活動の根底にありました。童謡集や民話集の刊行は、失われつつある地域の口承文化や情景を後世に伝える試みであり、また歴史書は、郷土の歩みを深く理解するための手がかりを提供しました。このように、一草舎は単なる書籍販売にとどまらず、長野県の地域文化の記録と継承に貢献する役割を果たしたと言えるでしょう。

短い活動期間ではありましたが、一草舎が長野県のために生み出した書籍は、その後の読者や研究者にとって、かけがえのない財産となっています。出版社の歴史としては幕を閉じましたが、その志は書籍という形で残り続けています。

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