七つちがい (松山千春の曲)

七つちがい

「七つちがい」（読み：ななつちがい）は、日本のシンガーソングライター、松山千春によって1987年4月25日にリリースされたシングル盤である。彼にとって通算23作目にあたるこの作品は、当時の彼の音楽活動を象徴する一枚として位置づけられる。シングル盤は、通常、タイトル曲とカップリング曲の二つの楽曲を収録しており、本作もその慣例に則っている。

タイトル曲「七つちがい」がどのような楽曲であったかについての具体的な情報は限られているが、1980年代後半というリリース時期は、松山千春が既にベテランとして確固たる地位を築き、円熟期を迎えつつあった時代と重なる。彼の楽曲は、フォークを基盤としながらも、その時々の音楽シーンや自身の内面的な変化を取り入れ、多様な表現を展開していた。本楽曲もまた、そうした彼の音楽性の延長線上にあるものと推察される。

特筆すべきは、本シングルのカップリングに収録された楽曲「あなただけの季節」に関するエピソードである。この楽曲は、当時、大手証券会社である野村證券が「エース」という商品名で展開していたサービスのテレビコマーシャルに採用され、CMソングとしてお茶の間に流れた。企業タイアップ、特にテレビCMとの連携は、楽曲の認知度を飛躍的に高める上で極めて有効な手段であり、多くのアーティストや楽曲がその恩恵を受けてきた。

しかし、「あなただけの季節」のCMタイアップにおける興味深い点は、楽曲がCMに使用されたにもかかわらず、松山千春自身がその映像に一切出演しなかったことである。これは、楽曲自体が持つイメージやメッセージ性が重視され、アーティストのパーソナリティとは切り離された形でプロモーションが行われた事例として捉えることができる。アーティストの露出よりも楽曲の持つ力を前面に出すという戦略は、特定の広告目的において効果を発揮する場合がある。

さらに、当時の野村證券は、このタイアップを多角的に活用していた。その一環として、彼らは宣伝用のテレフォンカードを制作したが、そこにも明確に「あなただけの季節（歌）松山千春」という表記がなされていたという。テレフォンカードは、1980年代から1990年代にかけて、電話のプリペイドカードとして広く普及しただけでなく、企業やイベントのノベルティグッズとしても非常に人気の高いアイテムだった。特定の楽曲やアーティスト名を記載したテレフォンカードは、販促ツールとしてだけでなく、ファンにとってはコレクションの対象ともなり得た。こうした媒体を用いたプロモーションは、当時の広告戦略における標準的な手法の一つであった。

このシングル「七つちがい」は、松山千春のシングルディスコグラフィーにおける一つの到達点を示すと共に、「あなただけの季節」におけるCMタイアップとその特異な展開、さらにはテレフォンカードを用いた当時のプロモーション手法といった側面からも興味深い事例を提供している。

また、このシングルに関連する作品として、後にリリースされたアルバム名「起承転結IV」が挙げられている。これは、松山千春のベストアルバムシリーズの一つであり、シングルとして発表された楽曲が、まとめてアルバムに収録されることは、アーティストのキャリアを振り返る上での重要な形式である。本シングルに収録された楽曲も、この「起承転結IV」をはじめとするアルバムに再収録され、より多くのリスナーに届けられた可能性がある。シングルは発表当時の瞬間を捉えるメディアである一方で、アルバムへの収録は楽曲に新たな文脈と永続性を与える役割を果たす。

「七つちがい」というシングルは、楽曲そのものの魅力に加え、「あなただけの季節」というカップリング曲がCMタイアップを通じて広い層にリーチしたこと、そして本人の非出演という形でその連携が行われたこと、さらに当時のプロモーション媒体であったテレフォンカードにも名前が刻まれたことなど、1980年代後半の日本の音楽シーンにおける楽曲発表とプロモーションのあり方を理解する上でも参考となる作品と言えるだろう。松山千春の豊富なディスコグラフィーの中でも、特定のタイアップ事例を示すものとして、記憶されるべき一枚である。

もう一度検索