万人祭司

万人祭司：プロテスタントの根本教理

宗教改革において、プロテスタントが中心的な教理として主張したのが「万人祭司」です。これは、すべての信徒が神の前に平等であり、聖職者と信徒の間に明確な区別がないという考え方です。カトリック教会が聖職者階級を重視するのに対し、プロテスタントは聖書の解釈に基づき、信徒一人ひとりが直接神と交わることができるという独自の立場をとりました。

ルターの主張と聖書の解釈

マルティン・ルターは、カトリック教会の聖職者階級制度を批判し、万人祭司の概念を強く主張しました。彼は、聖書の記述から、すべての信徒が神の前に平等であり、特別な聖別を受けた聖職者だけが神との交わりを持てるわけではないと論じました。

ルターは、聖書中のいくつかの箇所を根拠として万人祭司の考え方を示しています。例えば、コリントの信徒への手紙では、教会における信徒たちの多様な役割と互いの奉仕が強調されており、これは聖職者と信徒の峻別を否定する根拠として用いられました。また、ペトロの手紙やヨハネの黙示録などからも、すべての信徒が神に仕える存在であることが示唆されていると解釈しました。

さらに、ルターは具体的なたとえ話を用いて万人祭司の考え方を説明しています。例えば、信徒の集団が孤立した状況に置かれた場合、聖職者が不在であっても、その中から誰かがリーダーシップを取り、洗礼やミサ、説教を行うという状況を想定しました。これは、誰にでも神に仕える能力が備わっていることを示唆するものです。ただし、ルターは、万人祭司であるからといって、誰でも好き勝手に教会の職務を引き受けて良いというわけではなく、共同体の同意と委任が不可欠であることを強調しました。

マタイによる解釈

プロテスタントはマタイによる福音書16章18節「あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。」の解釈においても、カトリックとは異なる見解を持っています。カトリック教会は、「岩」をペトロ個人と解釈し、ペトロの後継者たるローマ教皇と聖職者を通してのみ信徒が神とつながると考えます。一方、プロテスタントは、ギリシャ語の原文において「岩」を表す言葉がペトロ個人を表す言葉とは異なることを指摘し、「岩」はペトロの信仰告白に象徴される、キリストを信じるすべての信徒全体を指すと解釈します。この違いが、聖職者と信徒の関係に対する異なる見解を生み出しました。

プロテスタント教会における共通理解

ルター以降のプロテスタント諸派は、聖書の様々な箇所を根拠として、万人祭司の概念を共有しています。これには、マタイ16：18節に加え、出エジプト記、第一ペテロの手紙、ヨハネの黙示録など、信徒の信仰と神との直接的な関係を強調する箇所が含まれます。

まとめ

「万人祭司」は、プロテスタント神学の中核をなす重要な概念です。聖職者と信徒の区別を超えた、すべての信徒の平等性と、信徒一人ひとりが直接神と交わる能力を強調するこの考え方は、宗教改革後のプロテスタント教会の組織や信仰生活に大きな影響を与えました。カトリック教会との解釈の違いは、キリスト教史における重要な論点として現在も残されています。

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