万代橋 (広島市)

万代橋：歴史と原爆、そして記録画運動

広島市中区、元安川に架かる万代橋は、広島の街の歴史と原爆、そして市民の記憶を繋ぐ重要な橋です。現在の万代橋は13代目であり、1980年に架け替えられました。しかし、その歴史は明治11年、初代の木橋架橋にまで遡ります。

明治から現代へ：幾多の変遷

初代万代橋は木造の橋でした。その後、大正5年にはドイツ人技師の設計による鋼鈑桁橋に架け替えられ、当時県庁の西詰に位置していたことから「県庁橋」とも呼ばれていました。この橋は、広島の近代化を象徴する建造物の一つでした。

原爆と万代橋：焼けたアスファルトの記憶

1945年8月6日、広島に原爆が投下されました。万代橋は爆心地から880mの距離にあり、凄まじい熱線に晒されました。その時の熱風によって、橋を渡っていた人や荷車の影がアスファルトに焼き付いたという衝撃的な記録が残されています。しかし、驚くべきことに橋自体は倒壊を免れました。爆風で欄干が吹き飛んだ状態ではありましたが、構造は維持されていました。この事実は、原爆の爆発点の高度を推定する上で貴重なデータとなりました。被爆した万代橋は戦後も長く使われ続け、1971年には歩道橋も増設されています。しかし老朽化が進んだことから、現在の橋に架け替えられたのです。旧橋の親柱は現在も付近に保存されており、当時の面影を伝えています。

原爆記録画運動の起点

万代橋は、原爆の悲劇を後世に伝える上で、また別の重要な役割を果たしました。1974年、ある老人がNHK中国本部に一枚の絵を持参したことが、現在も続く「市民の手で原爆の絵を」という原爆記録画運動の始まりでした。この絵は、老人が当時視聴していたテレビドラマに感銘を受け、被爆直後の万代橋付近の惨状を描いたものでした。NHKがこの絵を元に番組を制作、放送したことがきっかけとなり、多くの市民が被爆体験を描いた絵をNHKに寄贈するようになりました。その数は、わずか数ヶ月で1000点近くに達し、平和記念館で展示されました。万代橋とその周辺の惨状を描いた数々の絵は、原爆の悲惨さを伝える貴重な資料となっています。

周辺環境と万代橋

万代橋周辺には、広島市立広島特別支援学校や広島市文化交流会館といった施設があります。また、橋の西詰南側には「被爆市長公舎跡」の碑、東詰（大手町4丁目側）には「興南寮跡」の碑が設置されています。これらの碑は、原爆投下時における悲劇と、戦時下の歴史を物語っています。被爆市長公舎跡は、当時広島市長であった粟屋仙吉氏が被爆し亡くなった場所です。「興南寮跡」は、第二次世界大戦中に広島高師・広島文理大に留学していた東南アジアからの留学生のための寮があった場所を示しています。

万代橋は、単なる橋としてだけではなく、広島の歴史、原爆の記憶、そして市民の平和への願いを象徴する存在と言えるでしょう。その歴史と役割を理解することは、平和な未来を築く上で重要です。

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