三井山野炭鉱

三井山野炭鉱（みついやまのたんこう）

福岡県嘉穂郡稲築町（現在の嘉麻市）にかつて存在した三井山野炭鉱は、筑豊炭田の中でも三井鉱山（後に日本コークス工業）が経営する主要な炭鉱の一つでした。この炭鉱は、日本の近代化を支えるエネルギー資源として重要な役割を担いました。

炭鉱の歩み

三井山野炭鉱の歴史は明治22年（1889年）に始まり、日本の産業発展とともに歩みました。しかし、地下深くでの採掘作業は常に危険と隣り合わせでした。昭和34年（1959年）12月21日には、山野鉱業所第1坑の坑口から約10キロメートル離れた地点で爆発事故が発生し、7名の犠牲者と24名の重軽傷者を出しています。そして、さらに大規模な悲劇が炭鉱を襲うことになります。

未曽有の惨事 - 山野炭鉱ガス爆発事故

昭和40年（1965年）6月1日正午頃、山野炭鉱は未曽有の大事故に見舞われました。坑内で大量のメタンガスが突如として噴出し、それに何らかの原因で引火して大爆発が発生したのです。

この事故により、合計で237名が死亡し、38名が負傷するという、極めて悲惨な結果となりました。犠牲者のうち約9割は、爆発によって発生した一酸化炭素を吸引したことによる中毒死でした。これは、爆発が坑内に新鮮な空気を供給する役割を持つ「入気坑道」で発生したため、毒性の強い一酸化炭素が坑内の奥深くまで急速に拡散してしまったためです。このガス爆発事故は、戦後日本の炭鉱事故としては、わずか2年前に発生した三井三池炭鉱の炭じん爆発事故に次ぐ犠牲者の数となり、当時の社会に大きな衝撃と悲しみをもたらしました。

事故発生後、炭鉱を経営する山野鉱業、およびその親会社であった旧三井鉱山に対して、厳しい目が向けられました。特に、坑内のメタンガス濃度を自動的に監視し警報を発する装置が設置されていなかったことや、危険なガスを坑道の外へ排出する措置が不十分であったことなど、基本的な保安対策における重大な過失が指摘され、激しい批判を浴びました。

事故の犠牲となった方々の遺族は、会社側に対し損害賠償を求める訴訟を起こしました。この訴訟は長きにわたり争われましたが、最終的には平成元年（1989年）までに裁判上の和解が成立しています。事故から歳月が流れ、遺族の方々の高齢化などを背景に、平成16年（2004年）に事故発生から40回忌を迎えたのを機に、遺族会は解散しました。しかし、事故の悲劇を決して忘れないために、かつて炭鉱にあった神社の跡地には、犠牲者を追悼するための慰霊碑が建立されており、今も静かに事故の記憶を伝えています。

歴史に関連するその他の出来事

三井山野炭鉱の歴史においては、採掘や事故以外にも記憶されるべき出来事があります。昭和25年（1950年）12月8日には、炭鉱の労働者向け住宅であった銭台坊炭鉱住宅で、住人一家4人が犠牲となる凄惨な殺人事件（銭台坊事件）が発生しており、この事件は現在も未解決のままとなっています。

閉山とその後の記憶

多くの命と引き換えに日本のエネルギーを支えた三井山野炭鉱は、昭和48年（1973年）にその歴史に幕を下ろしました。閉山から半世紀近くが経ちましたが、1965年のガス爆発事故の慰霊碑などは、炭鉱が地域にもたらした功績と悲劇、そして安全の重要性を後世に伝える大切な存在となっています。

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