三尺帯

三尺帯（さんじゃくおび）

三尺帯とは、主に男性が用いる帯の一種であり、その名前は帯の長さが鯨尺で三尺（現在の約113.6センチメートル）であることに由来します。略して単に「三尺」とも呼ばれていました。

江戸時代において、この帯は主に庶民の間で普及し、特に浴衣などを着る際に手軽に締められる普段着の帯として重宝されました。その起源については定かではありませんが、一説には、長さ三尺の手ぬぐいを折り畳んで帯として使用したことが始まりとも伝えられています。

形状は、男性が広く用いる角帯に似ていますが、いくつかの顕著な違いがあります。まず、使用される生地が挙げられます。角帯が硬めの素材を用いることが多いのに対し、三尺帯は木綿などの柔らかい生地で仕立てられるのが一般的です。また、幅も角帯より細く、そして何より長さが短い点が最大の特徴です。

長さが鯨尺で三尺しかないため、標準的な角帯のように帯を手に取って折り返してから締めるという複雑な手順を踏まずに済みます。体に一重に巻き付け、その両端を簡単な方法で結ぶのが主流でした。一般的な結び方としては、いわゆる駒結びなどが用いられました。

このように、三尺帯は体に触れる部分が少なく、また締め付けもきつくないように作られています。これにより、着用者の体への負担が軽減され、日常生活における動きやすさが確保されていました。まさに、リラックスできる普段着や部屋着としての機能性を重視した帯と言えるでしょう。

その機能性や手軽さ、そして粋な着こなしにも用いられたことから、三尺帯は単なる装身具に留まらない意味合いを持つこともありました。締め付けの少ない開放的なさまや、すぐに締められる手軽さが、気っぷの良い「伝法者」や、すぐに事に当たるような「勇み肌」といった、威勢の良さや気性の荒さ、あるいはさっぱりとした気質などを表現する言葉として用いられることもあったのです。

なお、三尺帯は長さが短いことから、子供用の兵児帯や、大人が用いる一般的な兵児帯と混同されるケースが見られます。しかし、本来、三尺帯と兵児帯は別個の種類の帯として区別されています。兵児帯が生地をくしゃくしゃにしながら締める柔らかい帯であるのに対し、三尺帯は形を整えて締める帯であり、素材や仕立て、そして歴史的な背景においても違いがあります。

現代では、三尺帯を目にする機会は少なくなりましたが、江戸時代の庶民の生活を支え、あるいは粋な装いを彩った帯として、日本の服飾文化史において独特の位置を占めていると言えるでしょう。

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