三月の5日間

『三月の5日間』について

『三月の5日間』は、岡田利規による戯曲で、彼の劇団チェルフィッチュによって2004年に初演されました。この作品は、2003年3月のイラク戦争開戦を背景に、六本木で出会った男女の短い滞在を通じて人間関係や感情の変化を描写しています。演劇のスタイルは独特で、役者たちは舞台セットなしで現代の若者の会話をだらだらと続け、時には何が起こっているのかが曖昧になったりします。

物語は、主人公のミノベとユッキーの5日間のラブホテルでの生活を中心に展開し、そこにミッフィーやアズマ、ヤスイ、イシハラといったキャラクターが絡んでいきます。各キャラクターは彼らの視点から語られ、複数の役者がその物語を再現する形を取ります。演者は「男優1」や「女優1」といった役名が付けられ、直接的なキャラクターの演じ分けは行われません。

この作品は、ストーリーにおけるクライマックスが特に設定されているわけではなく、終始緩やかな雰囲気で進行します。最後は、二人がラブホテルを出た後に男が女に割り勘の代金を渡し、そのまま駅に向かう場面で幕を閉じます。

また、この戯曲は2005年に小説としても発表され、その後2007年には『私たちに許された特別な時間の終わり』という形で出版されました。この出版物は、同年に第2回大江健三郎賞を受賞し、岡田の文芸における評価を高めました。

岡田利規はこの作品において、現代の若者の生活や心理を細やかに描写し、観客に身近に感じさせるような工夫を凝らしています。物語の中での極めて私的な瞬間や、日常的な気持ちの揺れ動きは、観客に共感を呼び起こします。特筆すべきは、劇中のセリフやシーンがしばしば断片的で、明確な意味に収束しない点です。これは観客に一種の不安感や多様な解釈を促し、作品をより深く味わう手助けになっています。

『三月の5日間』は、単なる恋愛劇や戦争劇にとどまらず、人間関係の微妙な変化や内面的な葛藤を映し出す実験的な舞台となっています。岡田利規の才能が光るこの作品は、現代戯曲の重要な一部として、多くの人々に影響を与えています。

もう一度検索