三朝庵

三朝庵（さんちょうあん）の歴史

東京都新宿区馬場下町に位置し、早稲田大学近隣で長年にわたり愛されてきた蕎麦店、「三朝庵」。この店は1906年に創業されましたが、その起源は江戸時代に遡る「平野庵」にまで及びます。閉店を迎えたのは2018年7月31日、早稲田大学の関係者なら誰もが知る地元の名店がその歴史の幕を下ろしました。

創業から閉店までの歩み

三朝庵の創業者である加藤朝治郎は、もともと日本橋で5代続いた雑貨商の家系に生まれましたが、1874年に営んでいた雑貨屋から、小石川後楽園近くで蕎麦店「三河屋」を開店しました。1906年には、早稲田に移転し、先代の「平野庵」から道具を引き継いで「三朝庵」として開店します。店名は、「三河屋」の「三」と「朝治郎」の「朝」を組み合わせたものとされています。

創業当初から、三朝庵は観客とともに歩んできました。特に大隈重信との結び付きが強く、彼が首相在任中には、三朝庵の蕎麦がしばしば振る舞われたとされています。このことから、三朝庵は「大隈家御用達」の名を持つこととなり、これは大隈が政治的な理由から選挙時に対立候補の運動員を遠ざけるための策略でもあったと言われています。

名物料理の誕生

1918年、三朝庵の一つの転機となった出来事がありました。宴会用に仕入れたトンカツがまさかのキャンセルにより大量に余ってしまい、創業者の加藤朝治郎はその処理に頭を抱えました。その際、常連の学生が「玉子丼のようにしてはどうか」と助言し、朝治郎はトンカツを卵でとじる新しい料理を考案しました。これが、日本で初めてのカツ丼の誕生につながったのです。

また、カレーうどんやカレー南蛮もこの店で生み出されました。これは、当時流行していたカレー店に客を奪われたことから、対抗策として新たに創り出されたメニューでした。日本の食文化に新しい風を吹き込んだこのメニューは、多くの人々に受け入れられました。

戦争による影響と再建

第二次世界大戦中、三朝庵は戦災で店舗が焼失してしまいますが、地下室は無事であったため、戦後再建の際には木造の二階建てとして再開。2階で行われる宴会には、近衛騎兵連隊の将校たちも参加し、カレーを使用した料理が好まれていたとのことです。このように三朝庵は、古き良き時代の思い出が詰まった場所でもありました。

当店舗も1987年に新築された三朝庵ビルに引っ越し、その後は1階のみの営業となりましたが、看板には「元近衛騎兵連隊御用/元大隈家御用」と掲げられ、「早稲田最老舗」と染め抜かれたのれんが続いていました。

閉店とその後

2018年の閉店は突然の出来事でした。事前に告知はされず、閉店後になって貼り出された告知が、多くの人々に驚きを与えました。三朝庵のブランドは多くの思い出と共に、永遠に心に刻まれ続けることでしょう。歴代の店主には、加藤朝治郎をはじめとする数名が名を連ね、その全てが三朝庵の歴史を作り上げ、伝えてきました。

最後に、三朝庵は井伏鱒二の著作『早稲田の森』や「そばもん」にも登場し、その存在が文学の中でも色濃く語り継がれています。

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