三田庸子

三田庸子：日本初の女性刑務所長、受刑者と共に歩んだ生涯

三田庸子（1904年2月1日 - 1989年4月21日）は、明治から昭和にかけて活躍した、日本初の女性刑務所長です。彼女は、女性受刑者の処遇改善と更生に生涯を捧げ、その功績は今日においても高く評価されています。

生い立ちと教育

1904年、三田庸子は神奈川県横浜市に生まれました。父親は地方裁判所の長を務める法律家であり、母親はアメリカで教育を受けた進歩的な女性でした。幼少期から転居を繰り返す中で、彼女は多様な環境に触れ、豊かな感性を育みました。

1920年、熊谷高等女学校を卒業後、父親の意向で日本女子大学校（現：日本女子大学）家政学科へ進学しました。入学後、キリスト教の信仰に触れ、洗礼を受けました。また、在学中は国文学にも関心を抱き、社会学の講義も聴講するなど、幅広い分野に知的好奇心を持っていました。

結婚と転機

1924年に大学を卒業後、東京市児童保護課に勤務し、その後児童給食事業に従事しましたが、2年後に結婚し退職しました。しかし、結婚生活は長く続かず、夫と死別。その後、孤児院で副舎監を務めるなど、困難な状況の中でも社会貢献を続けていました。再婚後、朝日新聞記者との間に子供を授かりますが、戦時中に夫を亡くすという悲劇に見舞われました。

女性刑務所長としての挑戦

1946年、三田庸子の人生は大きな転換点を迎えます。GHQの意向により、42歳で和歌山女子刑務所の所長に任命されたのです。これは、日本初の女性刑務所長誕生という画期的な出来事でした。庸子は、刑務所の実態に触れ、女性受刑者の劣悪な環境を目の当たりにし、その改善に全力を尽くしました。

具体的な改善策

食事: 受刑者と同じ食事を摂り、カロリー計算に基づいたバランスの取れた献立を導入しました。
服装: 赤く汚れた囚人服を、縞模様の着物に変更しました。
出産: 刑務所内での出産が子供の将来に悪影響を与えると考え、外部での出産を許可しました。
矯正作業: 美容業など、社会復帰に役立つ職業訓練を取り入れました。

さらに、刑務所の看板を「○○寮」と変更し、バス停の名前も変えるなど、受刑者への偏見をなくすための改革も行いました。これらの取り組みは、多くの受刑者に感謝されましたが、中には誤解や恨みを買うこともありました。かつての受刑者から、復讐のために自宅で刺されたこともありました。

東京婦人補導院長としての活動

1959年、三田庸子は和歌山女子刑務所長を退任し、東京婦人補導院の院長に就任しました。同時に府中刑務所の勤務も兼任し、引き続き女性の更生支援に尽力しました。

晩年と遺産

晩年は入退院を繰り返しながらも、その情熱は衰えることはありませんでした。1989年、85歳でその生涯を閉じましたが、彼女の残した功績は、日本の刑務所行政に大きな影響を与え、今もなお多くの人々に感銘を与え続けています。

主な著作

『女囚とともに (朝日文化手帖)』朝日新聞社、1955
『婦人と犯罪: 女子受刑者の實態を中心として』日本評論社, 1950.12
『性の闘い: 囚衣を剥いだ女たち』青春出版社、1970
『女囚とともに: 伝記・三田庸子』大空社、1990.4

三田庸子の生涯は、困難に立ち向かい、社会変革を成し遂げた女性の物語として、私たちの心に深く刻まれています。

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