三菱・レーシングランサー

三菱レーシングランサー：砂漠の闘いを彩ったランサーの系譜

三菱自動車は、1983年からパジェロでダカール・ラリーをはじめとするクロスカントリーラリーに参戦してきました。長年の経験と技術を蓄積した三菱は、2009年のダカール・ラリー参戦に向け、新たな挑戦としてレーシングランサーを開発しました。

開発の背景と経緯

2008年、三菱はクリーンディーゼルエンジンを搭載した新型車両での参戦を発表、同年7月にレーシングランサーを公開しました。この背景には、レギュレーションで有利なディーゼルエンジンを採用する競合他社の性能向上への対応がありました。ガソリンエンジンでは太刀打ちが難しくなりつつあった状況の中、ディーゼルエンジンへの転換は必然的な選択でした。また、当初はパジェロの販売促進が目的だったダカール・ラリー参戦も、企業イメージ向上(CI活動)へとその目的が変化しつつありました。

レーシングランサーの開発は2007年8月に開始され、わずか1年足らずで1号車が完成。フランス、スペイン、モロッコでの過酷なテストを経て、2008年10月にはFIAインターナショナルカップ・クロスカントリーバハ第6戦バハ・ポルトガルで実戦投入されました。そして翌2009年、念願のダカール・ラリーへの参戦を果たします。しかし、この年を最後に三菱はワークス活動を終了することとなりました。

メカニズム：進化した技術の結晶

FIAグループT1規定に準拠したレーシングランサーは、パジェロエボリューションをベースにしながら、数々の改良が加えられていました。マルチチューブラーフレーム、フロントミッドシップエンジン、ダブルウィッシュボーン式サスペンション、そして4輪駆動システムといった基本構成はパジェロエボリューションを踏襲しつつも、大幅な進化を遂げています。

外装はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製で、ランサースポーツバックをモチーフにした空力性能の高いボディが採用されました。ルーフ上には大型エアインテークを備え、リアハッチ内に設置されたインタークーラーへの冷却風の導入効率を高めています。

シャシーは新規設計のスチール製マルチチューブラーフレームを採用。2010年施行の規定変更に対応するため、パイプの大径化とホイールベースの延長(125mm)が行われました。ホイールベース延長によって得られたスペースを有効活用し、床下燃料タンクの位置を低く、スペアタイヤの位置を中央に配置することで、低重心化とマス集中化を実現しています。ディーゼル化による燃費向上により、燃料タンク容量はパジェロエボリューションより10%削減されました。

搭載されたターボディーゼルエンジンは、三菱が量産ディーゼルエンジンを持っていなかったため、6G7ガソリンエンジンをベースに開発されたという、非常にユニークなエンジンです。2006年4月に開発が開始され、当初は2008年ダカール・ラリー投入を目指しました。2007年6月からはパジェロエボリューションに搭載して走行テストが行われ、2008年にはダカール・シリーズ等に投入され実戦テストが繰り返されました。過給機には三菱重工製の大小2つのタービンを組み合わせた2ステージターボを2組搭載、ツインターボ構成とすることで、高い出力とトルクを実現しています。さらに、環境への配慮として、バイオ燃料を混合した燃料を使用していました。

ダカール・ラリーとその後：プライベーターへの転身と進化

2009年のダカール・ラリーでは4台のレーシングランサーが投入されましたが、マシントラブルやドライバーの体調不良により、完走は1台のみという結果に終わりました。ワークス活動終了後、レーシングランサーはプライベーターへと転売され、その活躍は続きます。

フランスのエリグループ社がチームを買収し、ディーゼルエンジンからガソリンエンジンへの換装、外装の変更など、様々な改良を加えながら、2010年以降もダカール・ラリーや他のラリーレイドレースに参戦し続けました。しかし、2011年には財政難によりチームは活動停止、レーシングランサーはブラジル三菱、オランダのリワルド・ダカールチームなどに受け継がれ、エンジン換装やボディ変更などを行いながら、その活躍の場を世界に広げていきました。2013年以降はリワルドチームがレーシングランサーをベースにフォード・HRXへと外観を変更し、フォード製V8エンジンを搭載したマシンを製作。このマシンはその後、中国資本によって復活したボルクヴァルトのダカールラリー参戦車両のベースにもなりました。ブラジル三菱もレーシングランサーをベースに、ASXへとマシンを変更。高地への対応を迫られ、アストンマーティン製のV8エンジンを搭載するなど、進化を続けました。

三菱レーシングランサーは、三菱自動車の技術力の高さ、そしてダカール・ラリーという過酷な環境で培われた経験と技術の結晶と言えるでしょう。その活躍は、多くのラリーファンに感動と興奮を与え続けました。そして、プライベーターによってその系譜は脈々と受け継がれ、ラリーレイドの歴史に大きな足跡を残しました。

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