三遊亭銀馬

三遊亭銀馬は、日本の伝統芸能である落語において歴史を持つ名跡の一つです。この名前は、江戸時代後期に活躍した滑稽本作家であり、自らも落語を演じた初代烏亭焉馬の系統に端を発するとされています。しかし、時代の変遷とともに、この「銀馬」という名称は「三遊亭」の亭号を冠して受け継がれるようになりました。

記録に残る初期の「銀馬」としては、まず談語楼（後に立川）銀馬が挙げられます。彼は江戸の出身で、本名は松塚幸太郎といいました。初代烏亭焉馬の門下で学び、寛政から文化の時代にかけて活動しました。『笑嘉登』や『富久喜多留』といった噺本の著者としても知られています。次に登場するのは、二代目立川銀馬です。彼は江戸の八丁堀で生まれ、本名は明らかになっていません。初代三笑亭可楽の弟子となり、「金笑」から「つるや萬助」と改名を経た後、二代目立川銀馬を襲名しました。これらの「銀馬」たちの間に、明確な資料は少ないものの、二名ほどの三遊亭銀馬が存在したとされています。

本項目で焦点を当てるのは、昭和期に落語家として活動した三遊亭銀馬（1902年 - 1976年）です。彼は1902年9月18日、東京の浅草に本名大島薫として生を受けました。

彼の芸歴は、1920年（大正9年）に八代目桂文楽に入門し、「桂文弥」を名乗ることから始まります。その後、二代目三遊亭金馬の門下に移籍し、「三遊亭金糸」と改名しました。さらに1925年（大正14年）には、その漢字表記を「金枝」と改めています。1933年（昭和8年）には、師匠である二代目金馬の息子であり兄弟子にあたる三代目三遊亭金馬の門下に移籍しました。この頃、彼は師匠である三代目金馬がかつて名乗っていた「三遊亭圓洲」に改名したとされています。確固たる証拠はないものの、この圓洲への改名と同時に真打に昇進した可能性が高いと考えられています。

第二次世界大戦後、彼はついに「銀馬」の名を名乗るようになりました。この「銀馬」という名前は、彼自身が考え出したもので、師匠である三代目金馬もあっさりとその襲名を許可したといいます。落語家として、彼は昭和初期から10年頃にかけて、SPレコードに三つの噺を吹き込んでいます。これには、『円タク受難』『我輩は犬である』『計算記』があり、当時の彼の芸風を知る貴重な資料となっています。彼は元来、人を笑わせることを得意とする滑稽家であり、その陽気な性格からか、いつの間にか「シャモジ」という愛称で呼ばれるようになりました。

しかし、落語家として華々しい活躍を見せる機会はあまりありませんでした。これは、彼の師匠である三代目金馬が当時、東宝名人会の専属であったため、銀馬も寄席の定席に出演することが難しかったという事情が影響しているとされます。三遊亭銀馬の名が公的な名簿で確認できるのは、1952年（昭和27年）頃です。同年、師匠が所属していた東宝名人会が、活動の拠点としていた日劇小劇場を明け渡すことになり、一時的に活動を休止します。この出来事を機に、三遊亭銀馬は落語家を廃業する道を選びました。

落語家を引退した後、彼は息子たちの活動を支えました。彼の息子たちは「小金井ブラザーズ」という名前で曲芸師として舞台に立っており、銀馬は彼らのマネージャーを務めたのです。落語界からは身を引いたものの、彼はその後も長く東京に住み続けました。そして、1976年（昭和51年）7月29日にその生涯を終えました。この訃報は、落語研究家である橘左近氏によって明らかにされています。

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