上円下方墳

上円下方墳

上円下方墳（じょうえんかほうふん）とは、古代日本において築かれた墳墓の一形式であり、また近代以降の皇室の墓所（陵墓）に採用された独特な形状を持つ墳墓を指します。

この形式の墳墓は、墳丘が二段構造をなし、下部が方形、上部が円形という特徴的な形状を持ちます。古代にこの形態で築かれた古墳は、日本国内では類例が極めて少なく、現在までに考古学的な調査によって確実なものとして確認されているのはわずか6例のみです。その希少性から、古代における特定の思想や権威を示すものと考えられています。

最初にその存在が明らかになったのは、奈良県奈良市と京都府木津川市境にある石のカラト古墳です。この古墳は7世紀末から8世紀初頭に築造されたと推定されており、1979年（昭和54年）の発掘調査によって上円下方墳であることが確認されました。石のカラト古墳は、日本で最初に上円下方墳として認識された事例です。

石のカラト古墳の発見に続き、1985年には静岡県沼津市の愛鷹山山麓で清水柳北1号墳が確認されました。これも8世紀初頭に築かれたと推定されています。その後、2003年には東京都府中市で武蔵府中熊野神社古墳（7世紀中頃から後半築造）、2007年には東京都三鷹市にある国立天文台の敷地内で天文台構内古墳（7世紀中頃築造と推定）が、それぞれ上円下方墳であることが確認されました。天文台構内古墳は1970年に一度調査が行われていましたが、2007年の再調査によってこの形態であることが確定したものです。さらに、2008年には福島県白河市で野地久保古墳（7世紀末から8世紀初頭）、2013年には埼玉県川越市で山王塚古墳（7世紀後半）が確認されました。

これらの確実な上円下方墳のうち、山王塚古墳は2013年現在において、下方部の一辺が63メートル、墳丘全体の高さが4.5メートルと、最も規模が大きいことで知られています。また、埼玉県熊谷市の宮塚古墳も、墳丘の測量図から上円下方墳である可能性が指摘されていますが、発掘調査による詳細な形態確認が行われていないため、確定には至っていません。

この独特な墳墓形式は、古代のみならず近代以降の皇室の陵墓にも採用されました。具体的には、明治天皇の伏見桃山陵、大正天皇の多摩陵、昭和天皇の武蔵野陵といった主要な天皇陵が上円下方墳の形式で築かれています。これらの近代陵墓が上円下方墳とされた背景には、古代の天智天皇陵（御廟野古墳）や舒明天皇陵（段ノ塚古墳）を上円下方墳であると認識し、それを模範とした経緯があります。しかし、近年の詳細な調査によって、これらの古代陵墓は実際には下部方形、上部八角形のいわゆる八角墳であることが判明しており、歴史的認識の変遷を示す事例ともなっています。

なお、広義には、下段を方形とし、上段を八角形とする八角墳を上円下方墳の範疇に含めて捉える見解も存在します。こうした広義の上円下方墳に含まれる墳墓としては、天智天皇の御廟野古墳がとりわけ著名です。また、奈良県明日香村にある著名な横穴式石室を持つ石舞台古墳も、かつて上円下方墳であった可能性が指摘されています。

現在までに確実な上円下方墳とされる古墳は以下の通りです（おおよそ北方より記す）。

野地久保古墳 - 福島県白河市（2010年国史跡指定）
山王塚古墳 - 埼玉県川越市（市指定史跡）
天文台構内古墳 - 東京都三鷹市
武蔵府中熊野神社古墳 - 東京都府中市（2005年国指定史跡）
清水柳北1号墳 - 静岡県沼津市（復元古墳）
石のカラト古墳 - 奈良県奈良市・京都府木津川市境（1996年国史跡指定）

上円下方墳は、その独特な形態と希少性から、古代および近代における埋葬思想や権力構造を理解する上で重要な手がかりを提供しており、今後のさらなる研究が待たれる墳墓形式です。

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