上田常隆

上田 常隆

（うえだ つねたか）

日本の主要新聞社である毎日新聞社の経営者として活躍した上田常隆は、1900年7月4日に大阪で生を受け、1980年10月14日に世を去りました。その出自は特筆すべきもので、祖父は旧盛岡藩士であり、母は立憲政友会総裁や内閣総理大臣を歴任した政治家、原敬の姪にあたります。

若年期とキャリア形成

旧制天王寺中学校、そして佐賀高等学校で学び、1926年には京都帝国大学法学部を卒業しました。大学卒業後、同年には大阪毎日新聞社（後の毎日新聞大阪本社）に入社。新聞人としてのキャリアをスタートさせました。入社初期から主に販売部門を歩み、現場で確かな実績を築き上げました。

毎日新聞社での昇進と社長時代

販売部門での経験と実績を基盤に、社内での地位を確立していきました。1951年には大阪本社営業局長に就任。その後も監査役、経理担当取締役、常務といった要職を歴任し、順調に昇進を重ねました。そして1961年1月、毎日新聞社の代表取締役社長に就任。日本の言論界をリードする主要新聞社のトップとして、約7年間にわたり経営の指揮を執りました。

社長在任中には、国際情勢、特にアジア地域に関する調査研究を目的とした「アジア調査会」の設立に深く関わるなど、単なる新聞製作・販売に留まらない広範な活動を展開しました。また、新聞業界全体の発展と地位向上にも貢献し、この期間中に日本新聞協会の会長も務めています。

社長退任後と社会貢献活動

1968年1月をもって毎日新聞社社長を退任し、最高顧問となりました。同年には、長年の日米友好関係への貢献が評価され、アメリカ合衆国イリノイ州のマンモス大学から名誉法学博士号が贈られています。

新聞社の第一線から退いた後も、上田は社会の様々な分野で積極的に活動しました。その公職は多岐にわたり、スポーツ、医療・福祉、青少年育成など幅広い分野に影響を与えました。

スポーツ振興: 日本社会人野球協会の会長を務め、社会人野球の発展に貢献しました。
医療・福祉: アジア救ライ協会の理事長として、ライ病（ハンセン病）患者の支援活動に関わりました。
* 青少年育成: 日本ユースホステル協会の会長、青少年育成国民会議の会長などを務め、未来を担う青少年の健全な成長を支援しました。

郷里岩手への尽力と文化活動

大阪生まれではありましたが、祖父の縁故地である岩手県への思いは深く、その振興と発展にも多大な貢献をしました。1969年には岩手県総合開発審議会の会長として、県の長期的な発展計画策定に携わりました。また、首都圏で学ぶ岩手県出身者の支援や交流を目的とした在京岩手学生会の会長、さらに岩手県出身者の横の連携を深める岩手県人連合会の初代会長も務めるなど、郷里出身者のための活動にも熱心に取り組みました。

文化・教育面での貢献としては、1965年に毎日新聞社東京本社の新社屋が完成したことを記念し、300冊を超える自身の蔵書を岩手県滝沢村（現在の滝沢市）に寄贈したことが挙げられます。これらの貴重な書籍は、地域住民の学ぶ場として現在も「上田文庫」の名で親しまれており、彼の文化振興への思いが地域に根付いています。

晩年の栄誉

長年にわたる新聞界での功績に加え、社会の各分野、そして郷里への貢献に対し、いくつかの栄誉が与えられました。1968年には、郷里である岩手県滝沢村（現：滝沢市）から名誉村民の称号が贈られました。さらに1970年には、日本国政府より勲一等瑞宝章という、国家への功労に対する最高位の勲章の一つが授与されています。

上田常隆は、激動の昭和期において、新聞社の経営者として言論界を牽引する一方、社会の多様な分野でリーダーシップを発揮し、郷里への貢献も忘れなかった、多才な人物としてその名を残しています。

もう一度検索