上茜部城

上茜部城の概要と歴史

上茜部城（かみあかなべじょう）は、現在の岐阜県岐阜市茜部本郷二丁目に位置していた、日本の戦国時代に築かれた山城または平山城と考えられています。別名として「茜部城」とも称されました。

築城に関わったとされるのは、近江国（現在の滋賀県）出身と伝えられる堀資重（ほり すけしげ）です。具体的な築城の時期については明確な記録が残されていませんが、戦国時代の美濃国が織田氏と斎藤氏、そして豊臣秀吉の勢力争いの舞台となった緊迫した時代背景を考慮すると、概ね16世紀半ば頃、堀資重がこの地に勢力を扶植していた時期に築かれたと推測されます。城は、周辺を支配し、地域の要衝を守るために重要な役割を果たしていたと考えられます。

この堀資重の子孫にあたるのが、戦国時代から安土桃山時代にかけて、織田信長、そして特に豊臣秀吉に仕えて数々の武功を挙げた稀代の武将、堀秀政（ほり ひでまさ）です。

堀秀政は、優れた武勇だけでなく、築城や領国経営にも手腕を発揮したことから、「名人久太郎（めいじん くたろう）」の異名で知られました。彼はまず織田信長に仕え、その才能を見出されます。信長亡き後は豊臣秀吉に重用され、彼の天下統一事業において軍事・政治の両面で欠かせない腹心となります。賤ヶ岳の戦いでは秀吉方として活躍し、論功行賞で近江長浜城主となりました。その後も紀州攻め、四国攻め、九州平定といった主要な戦役で常に先鋒を務めるなど獅子奮迅の働きを見せ、その功績によって越前北ノ庄城主として一国規模の大名へと栄進しました。

秀吉にとって秀政は、単なる武将の枠を超え、深い信頼を置く人物でした。しかし、天正18年（1590年）、秀吉が後北条氏を攻めた小田原攻めの最中、秀政は陣中で病に倒れ、志半ばにしてこの世を去ってしまいます。まだ40歳という若さでした。秀吉は秀政の死を深く悲しみ、その大きな損失を惜しんだと伝えられています。一説には、秀吉は小田原平定後に関東地方（関八州）を堀秀政に与え、徳川家康をさらに東に移す構想を持っていたとも言われており、もし秀政が生きていれば、その後の日本の歴史は大きく変わっていた可能性も指摘されています。

上茜部城がいつ頃、どのようにしてその役割を終え、廃城となったのかについても、残念ながら明確な史料は残されていません。しかし、堀秀政が有力大名として長浜城主（1581年）、北ノ庄城主（1585年）と各地を転々とすることになり、本拠地が移されたことを考えると、それに伴って上茜部城は不要となり、天正年間（1573年〜1592年）後半頃までには廃城となった可能性が高いと考えられています。

現在の城跡

現在の城跡は、かつての面影を留めるような大規模な遺構はほとんど残されていません。しかし、岐阜市内を南北に走る国道157号沿いの一角に、城跡があったことを示すものが存在します。

昭和65年（1990年）には、堀秀政の没後400年を迎えるにあたり、ゆかりの地であることを顕彰するため、「上茜部城跡堀秀政顕彰碑」と記された石碑が建立されました。この石碑は、かつてこの場所に戦国時代の城が存在し、堀資重やその子孫である名人堀秀政といった人物と関わりの深い土地であったことを今に伝える、貴重な手がかりとなっています。

上茜部城は、その歴史的な役割を終えましたが、堀秀政という傑出した武将を通じて、今も人々の記憶に留まる存在と言えるでしょう。城跡を訪れる人々は、石碑を通して、戦国時代の激動の時代に思いを馳せることができます。

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