下オリーブ核

下オリーブ核

下オリーブ核は、延髄に存在する神経核であり、小脳の運動学習や協調運動において重要な役割を果たしています。錐体の外側に位置するオリーブを構成する主要な構造であり、特徴的なC字型の形状をしています。

構造

下オリーブ核は、主に以下の3つの部分から構成されています。

主核: アルファベットのCのような形をしており、内側に開いた部分を「門」と呼びます。この門から小脳への出力線維が通過します。
背側副オリーブ核
腹側副オリーブ核

主核の内側にある門は、小脳へ向かう出力線維の通り道であり、これらの線維は交差して反対側の下小脳脚へと向かいます。これらの出力線維は特に登上線維と呼ばれています。

機能

下オリーブ核は、電気シナプスを介して核自体が電気的に同期した活動をしています。その出力である登上線維は、小脳皮質の分子層でプルキンエ細胞と多数のシナプスを形成します。

登上線維とプルキンエ細胞: 1本の登上線維は、小脳皮質の前後方向に存在する複数のプルキンエ細胞（約1～10個）とシナプスを形成します。しかし、1つのプルキンエ細胞は1本の登上線維としかシナプスを形成しないという特徴があります。
協調運動における役割: 登上線維は、下オリーブ核の同期した電気的活動を小脳皮質に伝え、プルキンエ細胞に時間的情報を提供します。また、苔状線維を通じて体性感覚の位置情報も小脳皮質に伝達され、これらの情報に基づいて協調運動の時空間的な制御が行われます。

主核と副核からの出力線維は、小脳内の異なる領域に投射されます。主核からの線維は小脳半球全体に分布し、副核からの線維は虫部と中間部に分布します。下オリーブ核は、ダルクシェヴィッツ核、カハール間質核、上丘などの視覚関連神経核や、中脳中心灰白質、赤核、大脳皮質などからも入力を受けており、多様な情報処理を行っています。

病理

下オリーブ核の仮性肥大

下オリーブ核の仮性肥大は、Guillain-Mollarretの三角（対側の小脳歯状核→上小脳脚→同側赤核→中心被蓋路→下オリーブ核）の障害によって引き起こされることがあります。この病変では、残存する神経細胞の周囲の神経突起が糸球体のように変化し、HE染色や鍍銀染色で観察できる糸球体様構造を形成します。また、細胞質の空胞形成やアストロサイトの増殖も見られます。

小脳歯状核の病変では対側の下オリーブ核に、橋背側中心被蓋路の病変では同側に変性が起こるのが特徴です。口蓋帆振戦（口蓋帆ミオクローヌス）では、下オリーブ核がペースメーカーとして機能し、肥大によって細胞間のgap junctionの連絡が強化され、同期的な発火が振戦の原因となると考えられています。

下オリーブ核の仮性肥大は、スモン、CJD、PSP、後索変性を伴う家族性ALSなどの変性疾患でも認められることがあります。

下オリーブ核神経細胞の脱落

下オリーブ核神経細胞の脱落は、多系統萎縮症においてプルキンエ細胞の脱落に続発して起こることが示唆されています。しかし、プルキンエ細胞の脱落と下オリーブ核の脱落の関係は完全には解明されておらず、逆行性経シナプス変性としての機序には疑問も残されています。

参考文献

臨床神経病理学　ISBN 9784890134403
* 頭部画像解剖 徹頭徹尾―疾患を見極め的確に診断する　ISBN 9784758308908

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